ビー・ディオールは2014年秋冬のコレクションで発表されたバッグだ。デザイナーはラフ・シモンズ。彼は2012年にディオールのアーティスティック・ディレクターに就任し、オートクチュールをはじめとするディオールのデザインを統括したが、2015年には退任している。
ファッション業界が要求する狂騒じみたスピードへの批判が背景にあったようだ。今回はそうした最近のファッション業界の動向なども紹介しながらビー・ディオールについて解説し、相場を見ていくことにしよう。
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老舗ハイブランドと現代のデザイナー
ラフ・シモンズがディオールで手がけた初のオートクチュールコレクションは、クリスチャン・ディオールのニュールックを彷彿とさせるあでやかさで会場とメディアを沸かせた。かつてディオールは1年ごとにスタイルをがらりと変えて驚かせたが、今やファッション業界のスピードは狂騒の域に達している。
自由に創造力を展開できるような環境ではないというのがラフ・シモンズの辞任の理由のようだ。ここではその辺りの事情を解説してみよう。
ハイブランドの雇われデザイナー
シャネル、グッチ、ルイ・ヴィトン、そしてディオールといった老舗ハイブランドのデザイナーはもはや創業者とはなんのつながりもない場合がほとんどだ。血縁も師弟関係も影響関係もない雇われデザイナーたちなのである。老舗のハイブランドには名前とカネと伝統がある。
デザイナーには、はじめから大きな注目と潤沢な資力・労働力が用意されており、参照できるデザインのストックも膨大だ。その分だけ期待とプレッシャーも大きくなるが、トップデザイナーは大なり小なりそうしたものと戦ってのし上がってきたのだ。だが1つ欠けているものがある。それは時間だ。
毎年8回のコレクション・1回150のデザイン
ラフ・シモンズによる最初のコレクションでは8週間という短い期間で50ピース以上のデザインが用意された。その模様は『ディオールと私』というドキュメンタリー映画に収められている。業界のスピードはコレクションを追うごとに加速していき、彼が辞任する頃には年に8回のコレクションがあり1回につき150ピースがデザインされていたという。
おまけにおよそ創造的とはいえないマーケティングの算段に振り回される。服はいつ売り出すべきか、ショーの翌日それとも3日後か。雑誌、Twitter、Instagramといった媒体ごとにどんな発信をしていくべきか。そんな議論に多くの時間が費やされる。
創造性と情報社会の衝突
こんなスピードでは、実に多くの大切なことを見落とすことになるとラフ・シモンズはいう。クリスチャン・ディオールは当時としては驚異的なスピードで次々と新しいラインを生み出して業界に旋風を巻き起こしたが、それでも1つのコレクションに1年を費やしたのだ。彼はメディア対策の巧みさでも知られたが、さすがに今の情報社会の雑踏に面したら右往左往するに違いない。
それでも得るものはある
ディオールに就任する時点でラフ・シモンズは長くやろうとは思っていなかったという。ある程度の不自由さを予見していたからだろう。だが現代のデザイナーにとって老舗ハイブランドという巨大な劇場に参加することは見返りが大きく、キャリアのためにはもはや必須になっているとさえいえるのだ。
多くのデザイナーは自分のブランドは別に維持しながら老舗ブランドに雇われる。老舗ブランドのコレクションで得た名声と経験と報酬は、自分のブランドや次のコラボレーションに力と自由を与える。ファッション業界が老舗ハイブランドの巨大艦隊を軸に成り立っている以上、どんなに芸術肌のデザイナーであれ、自分の創造のためにもそこを避けて通ることはできない。
ビー・ディオールの特徴
ビー・ディオールは明らかにレディ ディオールを参照してつくられている。この2つを対照しながら特徴を解説しよう。
ディオールのアイコン・レディ ディオール
レディ・ディオールには3つのアイコンが詰まっており、ディオールを代表するバッグコレクションであるだけでなくディオールそのものの代名詞の1つになっている。
カナージュステッチ
カナージュは籐編みの技法。これを使ったアンティークの椅子がクリスチャン・ディオールの最初のショー会場を飾った。後に彼は香水のパッケージのモチーフとし、後継者たちがさまざまなアイテムに取り入れてディオールのアイコンに仕立てた。
クリスチャン・ディオールが早世したこともあって、現在のディオールのアイコンは後継者によってつくられた部分が大きい。レディ・ディオールはカナージュステッチによるぷっくりとしたキルティングパターンが最大の特徴。エレガントな印象とともに女っぽさをしんしんと湧き出させている。
ルイ・ヴィトンのモノグラムに匹敵するほど象徴的なパターンだ。当初、レディ・ディオールはカナージュ・キュイールという名称だった(キュイール=革)。ダイアナ妃が愛用しメディアを介して彼女とともにこのバッグのイメージが広まったため現在の名に改められた。
Diorのチャーム
持ち手の片側にD、i、o、rの各文字のチャームが重ねて取り付けられており、形の違うチャームが微妙にずれながら揺れるさまは愛くるしい。
U地型の大ぶりの持ち手
ぷっくりとした大きめの持ち手が小振りのバッグと良い対照をなし、互いを愛らしく引き立てている。U字のカーブも絶妙な角度を描いて女性らしさを強調している。
ビー・ディオール
こちらはカナージュステッチを採用せず、上質のスムースレザーの質感と鮮やかで落ち着いた発色の見事さが印象的だ。また、バッグトップはフラップタイプで、上に向かってマチが狭まる形状になっている。一方、Diorのチャームと持ち手はレディ・ディオールと共通のモチーフで、バッグと持ち手のサイズ感も近い。
チャームはアイテムごとにメタルとレザーの場合があり、バッグとの色合いの対照もおもしろい。全体的に一見おしとやかな印象だが、妖艶さをあえて隠しているようにも見える。サイズはミニ・スモール・ミディアムの3種。カラーはブラック、パウダーピンクをはじめとしてさまざまで、2色3色使いのモデルも存在する。
ビー・ディオールの相場
買取業者とヤフオクについて相場を見ていこう。以下の情報は2019年5月28日現在で収集されたものである。
業者の買取価格
以下に実際の買取価格を並べてみる。ただしこれは複数の業者の価格を無差別に並べたものにすぎず、必ずしも一般的傾向を示すものではない。業者の在庫や売買戦略により査定額は大きく変わりうることをお断りしておく。なお、サイズは一部推定による。
- ・ライトピンク/ミニ(未使用)…200,000円
- ・ディープブルー/スモール(未使用に近い)…200,000円
- ・パウダーピンク/ミニ(状態不明)…170,000円
- ・レッド/スモール(未使用)…115,000円
ヤフオクの落札価格
2016年3月から2019年4月までの3年間の取引を参照する。落札価格は次のようになっている。
- ・ブラック/ミニ(未使用)…258,000円
- ・ライトブルー/スモール(軽い使用感あり)…137,038円
- ・オフホワイト/ミニ(美品)…124,000円
- ・ブルー/スモール(美品)…111,112円
- ・パウダーピンク/ミニ(傷・使用感あり)…73,900円
価格比較・色について
一般的にいって、洋服と合わせやすい色、黒などや人気の定番色、パウダーピンクなどのほうが買い手がつきやすく、相場は高めになる。少数の例からの断定はつつしみたいが、上に見た買取価格・落札価格にもそうした傾向が読み取れると思う。
まとめ
ビー・ディオールは発表からあまり経っていないこともあって中古市場での取引は少ない。いかにもディオールらしいデザインというわけではないことも影響しているかもしれない。ヤフオクの取引例はすべて業者による出品である。
高額商品であることやディオールには偽物が多く出回っていることから、ヤフオクでの個人間取引はややハードルが高いかもしれない。強気の査定額を出している買取業者もあるようなので、複数の業者に査定を依頼してみることをおすすめする。当サイト・ヒカカクの一括査定機能などを利用して効率良く情報を集めてほしい。
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