日本における質屋の歴史は古い。鎌倉時代、貨幣経済の発展とともに誕生した質屋は、その特性から庶民の生活の柱として、あるいは最後の駆け込み寺としての役割を果たしてきた。
現在、質屋は2000店以上あるといわれ、700年以上たった今でも私たちの生活に欠かせないものとなっている。質屋を正しく快適に利用するためにも、質屋の歴史からその収益構造まで、質屋の全てを解説していこう。
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質屋の誕生は鎌倉時代
質屋が誕生したのは今から700年以上前、鎌倉時代だといわれている。徐々に貨幣経済が浸透する中、地方の領主などが庶民に対し「担保付きの貸付」を行ったことが質屋の原形だとされている。ただ、当時は質屋という呼び名ではなく「土倉」(とくら)と呼ばれていた。
室町時代に入ると、質屋は庶民にとっての「金融機関」的な役割を持つようになる。質草(質に入れる品物)を質屋に預け、それを担保にお金を借りる(調達)することで庶民の生活は安定的になり、経済も発展していった。
そして江戸時代に入ると質屋は爆発的に増加し、「質屋取締令」という法令も施行され、呼び名も土倉から質屋に変更された。
質屋の移り変わり
長い歴史の中で、庶民の生活と共に質屋も変化していった。江戸時代の質屋を詳しく見ていこう。
当時の質草品
当時質草としては何があったのだろう。現代ではブランドバッグや宝飾品が主流であるが、当時は衣類(着物)やキセル、火鉢や大工道具などが質草として預けられていた。鎧兜などの武具類や、将軍家の家紋が入った品物を質草にすることは禁止されていたそうである。
火に強い土蔵造りが基本
また、当時は土蔵造りが主体であり、これは江戸において火事が多かったことが要因とされている。質草はあくまで「担保」であり、預かっているだけ。その担保(財産)を保管するには、火に強い造りが必須であったと想像される。
現在も蔵を持つ店は多いが、質草の多様化により、より温度や湿度管理に配慮されたものも多い。
リーマンショックによる「質屋」が再浮上
こうして質屋は、庶民の金融の主力として1960年代頃まで発展し続けた。ところが1970年代に入り、いわゆる消費者金融が登場し、無担保・無保証人で融資する仕組みができ始めると質屋は衰退を始める。
だが、リーマンショックが起きた2007年以降、再び質屋は注目を集める。世界中の金融関連株が軒並み下落する中、質屋の株価だけが高騰するという現象が起きたためだ。あらゆる商品が返済不能で焦げ付く中、質屋は「担保をとる」という金融商売の基本を貫き続けた。質屋は今も昔も、そしてこれからも庶民の健全な金融として生き続けるだろう。
質屋のシステム
Money / free pictures of money
最近では、質屋だけでなく買取専門業者などもよく見かけるようになり、その2つを混同している人も多い。事実、質屋の中には貸付事業よりも、宝飾品や貴金属などの、いわゆる「ブランド品」などの買取や仕入れ、販売などを事業の主体にしているところもある。
質屋と買取店の違い
しかし、質屋とは本来「金融業」である。「質草を担保にお金を貸す」のが質屋の商売であり、これこそが買取専門業者との大きな違いである。利用者は、品物を(買取ではなく)“預けて”、その品物の価値の範囲内でお金を“借りる”のである。
買取専門業者は、不用品を買い取り、それを転売することで利益を得るが、質屋はあくまでお金を貸すことに特化している。「どうしても今お金が必要」という人々に対して、家財やブランド品を担保に貸し付けるのである。
質預け
これを「質預け」というが、要は期限内に質料(利息)と元金を支払うことで、預けた品物が手元に戻ってくるというシステムになっている。あくまで貸付であり、買取専門業者とは事業形態は根本的に異なる。「いまお金が必要だが、これは手放したくない」というときに利用するのが質屋ということになる。
仮に貸付金の返済が不可能になっても、貸付金の返済義務は一切発生しない。また、質料(利息)だけ支払えば、質入れの期間を延長することもできる。これこそが質屋の本質である。
質屋の収益構造・ビジネスモデル
基本的に質屋は質草の価値以下のお金しか貸さない。貸付金が返済されれば、その利子で儲けることができ、仮に返済されず質流れ(質屋に借りた金の返済をしないまま期限が切れて、質物の所有権が質屋に移ること)になっても、質草を売ることで利益が出る仕組みとなっている。質屋が買い取りをする場合も、当然利益が出るように買取価格を提示する。
また、在庫が溜まってきた場合には、店頭販売のほか、質屋専門のセリ市場でも売却を行う。最近ではネットオークションなどに出品することで、より短期的に、あるいは全国に向けて展開をする質屋も増えた。あくまで貸金業であるのが質屋の本質だ。
どんな人が質屋を利用するのか
700年以上も前からある質屋だが、現代の若者にはあまり知られていないのが現状だ。では、どんな人が質預かりを利用しているのだろうか。質預かりは、物品を担保にお金を借りる仕組みだが、もちろん返済期限は設けられている。だいたい3か月が返済期限となっているため、以下のような場合に利用することが多いようだ。
- ・給料日まであと1週間あるが現金が底を尽きてきた。生活費を工面するため、時計を預けるサラリーマン
- ・海外旅行や引越しなどの出費で生活が苦しくなったため、昔購入したブランドバッグを利用して生活費に充てるOL
- ・起業して間がなく、直近の運転資金として質入れをする個人事業主
このように、短期的にお金が必要になった場合に利用されているようだ。過去の信用情報や現在の年収による審査が不要であるため、年齢や性別、業種や職業にかかわらず利用者がいる。
同じ品物を何度も預入するのもOK
また、質預かりの特徴としては、一度預けたことのあるものを何度でも預けられることにある。例えば、ダイヤの指輪を給料日前の辛い時期に質預かりをして、また必要な時には再びその指輪を預ければいいのである。
買取では物品の所有権は自分のものではなくなるため、こういった利用はできなくなる。高価なもの、価値あるものを持っているのであれば、いざというときのために売らずに保管しておくことをおすすめする。
消費者金融と質屋はどう違うのか?
お金を借りるという点では同じだが、消費者金融と質屋はどう違うのだろうか。違いについて知ろう。
信用情報が必要かどうか
消費者金融でお金を借りる場合は、申込者本人の信用情報を調べる審査がある。そのため、審査に通りさえすれば担保にするものがなくても、保証人なしでも利用が可能である。
対して、質屋は信用情報による審査が不要である代わりに、担保する物品がなければ1円も借りることができない。担保にするものがあるのなら、信用情報や手間な審査が要らない質屋を利用するのがいいだろう。
取り立てされるかどうか
消費者金融からお金を借りた場合は、返済期限に間に合わないと電話や文書などでの取り立てが発生する。さらに、取り立ての勧告を無視すると、会社にも電話がかかってくる場合がある。
質屋は返済期限を過ぎると、「質流れ」といって、預けている物品が没収されるだけなので、取り立ての連絡が来ることはない。会社などに連絡が入ると、社会的な信用も多少なくすかもしれないが、質屋の場合は対外的な評判には影響しないと言える。
利用歴が残るか
もうひとつ大きな違いとして、信用情報が残るかどうかということがある。消費者金融の場合は、いつ、どの機関から借り入れがあったかや、金額、返済状況などが記録される。
一方、お金を貸す際に信用情報をそもそも調べない質屋では、記録に残ることはない。消費者金融は信用情報に多くの借り入れ記録が残っていたり、返済状況が思わしくなかったりすると、新規の借り入れ申し込みは難しくなる。しかし、記録に残らない質屋なら、自分の必要なタイミングで自由に利用できるだろう。
それぞれにあるメリット・デメリット
消費者金融、質屋それぞれにメリットとデメリットはある。消費者金融は返済見込みが見られる信用がある人に、質屋は価値がある物にフォーカスしている点が異なる。
質屋は歴史と伝統がある借り入れ方法なので、しっかりとシステムが確立している。質屋に預けられるものを持っているのであれば、質屋も借り入れの方法として取り入れてみてはいかがだろうか。
まとめ
Japan / Moyan_Brenn
700年以上の歴史をもつ質屋。もともとは庶民への貸付業として誕生し、今でも日本国民の生活の一部として存在している。
あなたの家庭の中に価値あるものが眠っているかもしれない。宝石なのか家財なのかはわからないが、様々な事情のなかで、現金が必要となった際に「最後の砦」として質屋があることは精神衛生上良いことではないだろうか。伝統や文化のひとつとして、質屋という存在はあまりにも大きく、日本文化の支えになるのかもしれない。