掛け軸の買取市場では、日本の書家・松本芳翠も注目度の高い存在だ。さまざまな団体の設立により国内の書道界に大きな影響をもたらした松本芳翠は、現在「書」を学ぶ人々の間でも話題性の高い書家となっている。またオークション市場においては、書帖の買取実績も大変多く見受けられるため、松本芳翠の肉筆であることが確認できれば掛け軸の作品であっても高値が狙いやすいと捉えて良いだろう。
今回は、そんな松本芳翠の経歴や書風、買取市場における相場や査定ポイントを徹底解説していきたい。
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松本芳翠とは？
大正～昭和にかけて日本の書道界をリードした松本芳翠は、愛媛県生まれの書家だ。
松本芳翠における3人の師
14歳で今治中学校を中退した松本芳翠は、加藤芳雲、近藤雪竹、日下部鳴鶴に師事しながら書道の基本を学ぶこととなる。2番目に入門した近藤雪竹は、鶴門の中で最も隷書を得意とした人物だった。また21歳からお世話になった日下部鳴鶴は、明治の三筆と呼ばれる近代書道の確立者でもあったため、こうしたさまざまな師に書道や芸術を学びながら、松本芳翠は自分らしい書風を確立していったと言えるだろう。
さまざまな書道会や団体の設立
松本芳翠は、書海社、戊辰書道会、日本書道美術院、東方書道会といった大変幅広い団体を作った人物だ。書道に関する展覧会や教室の開催、出版物の刊行などを行う書海社は、現在でも創設者・松本芳翠の理念に基づいて活動を行う企業となっている。
また日本書道美術院の開催する日書展のサンスター国際賞については、国内書道展における唯一の国際賞として知られているため、松本芳翠によって設立された団体は日本の書の文化を海外発信する役割も担っていると捉えて良いだろう。こうした彼の活動によって残された団体は、書を学ぶ日本人にさまざまな可能性を与えているとも言えるかもしれない。
松本芳翠の受賞実績
松本芳翠の書家としての技能や功績は、彼の幅広い受賞実績からも見てとれる。1955年に書いた楷書八尺の「雄飛（大鵬一舉九萬里）」については、文化庁が主催する芸術選奨にて文部大臣賞を受賞している。また1970年には公益のために私財を寄付する功績が顕著な人々に贈られる紺綬褒章も受賞しているため、書家の技能だけでなく社会貢献的な姿勢についても松本芳翠は高い評価を得ていたと言えそうだ。
松本芳翠の書風
書体ごとに大きな特徴のある松本芳翠の書風は、書家を志す人々の間で話題に上がることも多い。また松本芳翠ならではとも言える書風が彼の作品の価値を高めるとも言えるため、こうしたポイントは買取業者の査定基準に繋がる部分も大きいと捉えて良いだろう。
楷書
唐代の書風を上手く取り入れ、秀麗で端整な松本芳翠の楷書は、「芳翠流」として現代でも多くの作家に受け継がれている。また生前の松本芳翠は、六朝風や鄭道昭風を取り入れた楷書により、多くの人々を魅了していたようだ。こうした形で書かれた）「雄飛（大鵬一舉九萬里）」は、前述のとおり芸術選奨にて文部大臣賞を受賞している。しかしその所在は現在不明だ。
行書
王羲之が得意とする点画の連綿をほとんど行わない松本芳翠の行書は、いわゆる行楷だと言われている。すべての点画がストレートな線で構築された「張瑞図」では、繊細かつ暴れたようにも見える書風を放出することで、鑑賞者を圧倒したこともあるようだ。また潤渇と墨色の難易度が非常に高い松本芳翠の行書は、自らも創意工夫を重ねた結果生まれた存在であるため、弟子たちにも習うことを禁じ自身の作風を模索するように指導していたとも言われている。
草書
松本芳翠の草書には、どんなに難しい詩文であっても華麗な作品に仕上げられる特徴がある。孫過庭の書譜をベースにさまざまな個展を渉猟していた芳翠の草書は、60代で凄絶のピークに達したと言われている。また当時の彼は、大字作品なども積極的に発表を行っていたため、他の書体と比べて草書のファンは非常に多い傾向があるようだ。こうした形で研鑽を重ね続けた松本芳翠の書は、古美術品市場においても高く評価されている。
松本芳翠の掛け軸における買取相場
松本芳翠の買取相場を調べてみると、価格情報が公開されているのはヤフオクだけであることに気付かされる。しかし出品者の中には古美術商も非常に多く見受けられるため、買取業者に売却することも十分に可能と捉えて良いだろう。ここでは参考までに、ヤフオクの落札価格をいくつかご紹介していきたい。
三行書
2014年に52,500円で落札された三行書は、茶室などに心穏やかな雰囲気を与える楷書の掛け軸だ。この作品には、軸先のヒビや折れ痕、経年劣化とも言えるシミや日焼けがあると書かれている。しかしそれでも66件もの入札が入っている実態から考えると、松本芳翠の楷書作品はコンディションさえ良ければヤフオクであっても100,000円近い価格が期待できると言えそうだ。
雨中過黒部峡谷七絶草書
大変人気の高い草書で書かれた「雨中過黒部峡谷七絶草書」には、106,000円もの高額落札に至った実績もある。黒部峡谷の来訪時に書かれたこの作品は、希少性と話題性によりたったの12件での入札で100,000円を超える価格までオークションが進んでいったようだ。
また前述のとおり松本芳翠は60代以降に草書の書風を確立したというエピソードもあるため、制作年代や書体にこだわったコレクションをしていれば非常に高い価格で現金化が可能と言えるかもしれない。
書帖も人気が高い
ヤフオクにおける松本芳翠の落札実績の中には、コレクターズアイテムとして人気の高い書帖も大変多く見受けられる。例えば、楷書唐詩帖には、2冊セットで101,000円もの落札額が付いている。また芳翠肉筆の書帖10冊セットに関しても58,000円もの高額落札に至っているため、彼の作品であれば掛け軸以外であっても高く売れる可能性が高いと捉えて良いだろう。
松本芳翠の掛け軸を高価買取に繋げる査定ポイント
現代においても多くの書道家から注目される松本芳翠の掛け軸は、これから紹介する2つの査定ポイントを抑えた上で売却に向けた行動を起こす必要がある。
コンディションや付属品の有無も査定基準に含まれる
人気書家・松本芳翠の掛け軸に高値を付けるなら、共箱や保証書、軸装といった付属品を含めて高いコンディションを維持する必要がある。茶室などに飾ることで日光によるヤケやシミが生じやすい掛け軸は、こういった経年劣化が生じていても基本的に買取可能なカテゴリだ。しかしあまりにもその状態が悪い場合は大幅な減額査定に繋がることもあるため、正しい方法で保管や鑑賞をすることを忘れないようにして欲しい。
書道家や掛け軸に詳しい買取業者の利用がおすすめ
松本芳翠の作品の売却先として適しているのは、彼のような近代書道家や掛け軸の買取実績が豊富な専門店だ。書に詳しい査定士のいる専門店では、作品の価値や市場の動向などからより精度の高い査定額を提示してくれる。
これに対して書道作品の買取実績が少ない業者の場合は、かなりアバウトな金額提示になることもあるため、日本の書道界で注目度の高い松本芳翠の売却をするには少し適さない部分が大きいと言えそうだ。
複数社への問い合わせで高価買取に繋がりやすくなる
買取店から提示された査定額に対する判断が上手くできない場合は、いくつかの業者に問い合わせをして相見積もりをとってみよう。この方法を実践すれば、松本芳翠の掛け軸に高い関心を示す専門店も見出しやすくなる。またオンライン査定やLINE査定を行う業者も増えている今の時代は、わざわざ専門店に足を運ばなくても自宅にいながらにして高価買取が狙いやすいと考えて良いだろう。
