亡くなった被相続人の所有物の中にたくさんの美術品があった場合は、その相続税評価の判断や調査方法がわからないことで、遺産相続手続きが上手く進まないケースも多く見受けられる。
また中には遺品整理を行ったタイミングで初めて故人が収集していた美術品の存在を知る方々も少なくないため、相続税評価の調査方法を含めてこのような場合の対応についてイメージしておくことも、スムーズな遺産分割協議に繋がると捉えて良いだろう。
今回は、一般の皆さんにとって馴染みの薄い美術品について、相続税計算に欠かせない評価や鑑定の方法や、手続きを進める上での流れや注意点などを整理していきたい。
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遺品整理をしていたら美術品が出てきた
遺品整理によって出てきた美術品は、どんなものでも「相続税計算の基礎に入る」という捉え方で扱わなければならない。
核家族化によって両親などの被相続人と離れて暮らす若者が増えた今の時代は、「こんな絵画に高い評価や価値が付くわけはないだろう」とか「故人に高価な美術品を買うお金があるわけがない」といった勝手な判断により、相続人が自ら美術品の処分をしようと考えるケースも珍しくない。
しかし過去に収集された美術品に思いもよらない価値が潜んでいる可能性を考えると、見た目だけで「要る・要らない」とか「相続税に関係する・しない」の判断をするほど、危険なことはないと捉えるべきだと言えそうだ。
国税庁で定める美術品の定義とは?
国税庁で出している資料には、財産債務の区分とその内容が詳しく書かれている。
その中で12番目に掲載されている項目「書画骨とう及び美術工芸品」には、1点10万円未満のものを除くという注意事項があるようだ。
こうした形で国税庁の資料を確認すると、美術品だけでなく骨董品、伝統工芸品についても、10万円以上の価値があれば相続税計算の基礎に含まれると捉えて良いだろう。
被相続人が美術品を所有していたら必ず相続税がかかるの?
ここで確認しておきたいのは、亡くなった被相続人が高額な美術品や骨董品をいくつか持っていたからといって、必ず相続税の支払いが命ぜられるというわけではない実態である。
法定相続人が1人の場合に対して3,600万円の基礎控除が設けられる遺産相続では、故人の財産全てを合計した金額が3,600万円を超えない限り相続税を支払う必要がなくなる仕組みとなっているのだ。
相続税計算対象の中には家や土地、不動産、預金といったものも含まれるため、これらを累積すれば3,600万円になってしまう可能性もある。
しかし預貯金のない故人が賃貸マンションなどで生活をしていて、所有美術品や骨董品の数や価値が低い場合は、相続税の支払いを行わなくて良いケースもあると捉えて良いだろう。
相続税を払っている人の割合
ちなみに国税庁が出している統計年報書によると、毎年45,000~46,000件前後の相続税の申告書が提出されている。
これに対して実際に相続税がかかるのは、このうち4%前後になるようだ。また美術品や骨董品に対して相続税がかかるケースと考えると更に件数は少なくなり、年間1,000件前後ではないかと推測する業者も存在している。
調査が面倒!申告しなくてもバレないのでは?
ここで注意したいのは、3,600万円以上もの基礎控除によって相続税の支払いがなくなるケースが多いとしても、申告は絶対に行わなければならないという点である。
相続税の申告は、年に1回行う確定申告と同じように国民の義務である。
この義務を知らずに「美術品の評価を調べるのが面倒くさい」といった理由で相続税の申告を行うと、これから紹介するさまざまなペナルティが課せられるため、注意をするようにして欲しい。
無申告がバレた時の恐ろしいペナルティとリスク
相続税の無申告や脱税行為が税務調査によって発覚した場合、無申告加算税や過少申告加算税、延滞税、重加算税といったペナルティが課せられる。
また相続税の場合は、善意の相続人と悪意の相続人によって時効が2年も異なる形となるため、遺産相続時にどんな事情があってもきちんと申告をする姿勢が必要だと言えるだろう。
美術品の相続で実践すべきこと
続いて、当ページの本題とも言える美術品の相続税評価について、話を移していこう。
被相続人が残した美術品がある場合は、下記2パターンのいずれに該当するかにより、手続きの方法を変える必要がある。
価値の低い美術品が少数の場合
例えば、被相続人と相続人が夫婦や親子で一緒に美術品収集をしていて、その大半が「1万円~10万円ほどの安いものだ」と断定できる場合は、美術品を個別の資産にするのではなく、家具やタンス、日用品といった家庭用財産の中に含まれる方法が選択できる。
こうしたケースの相続税評価は、「家財道具全部で50万円」といったイメージで算定される。
美術品の価値が全くわからない場合
遺産相続を行う法定相続人が被相続人の美術品の価値に全く興味がなく、またその判断ができない場合は、1点数百万ものお宝が眠っている可能性も疑った上で、美術品専門店に鑑定してもらうことが理想となる。
また今の時代は、オンライン査定やLINE査定で簡単に鑑定額や査定額を教えてくれる専門店も増えているため、いくつかの美術品情報を使って「価値あるコレクションなのか?」を判断することも、専門店による鑑定の前準備になると言えるだろう。
美術品の相続税評価における流れと相場、注意点
税務署を納得させる形で美術品の相続税評価を調べる方法で最も良いのは、各地の美術倶楽部や美術商を営む著名人といった精通者に価値判断や鑑定をお願いすることだ。
国税庁による指定のない精通者は、美術品の売買実績が豊富な専門店の鑑定士であれば十分にその役割を果たせると捉えて良いだろう。
相続美術品を仕分ける
相続税評価のできる鑑定士は、まず故人の自宅に眠った美術品や骨董品の仕分けから作業を始める傾向がある。
このステップを通して「明らかに価値がない」と判断されれば、遺品整理の作業も進みやすくなると言えるだろう。
相続税評価の相場は何を基準に決まるもの?
相続税評価の相場は、時価を基準に判断される。
これは相続税法22条で定められた条件のため、基本的にどの美術品専門店に鑑定を依頼しても同じ基準で作業が進められると捉えて良いだろう。
しかし中には特定の作家に高値を付ける業者もあるため、評価額が完全に同一になることは少ないと捉えた方が良さそうだ。
書画骨とう品評価鑑定書を作成する
国税庁の財産評価基本通達に則って評価が行われた後、税務署への申告に必要となる書画骨とう品評価鑑定書が作られる。
この書類を専門店側で作成してもらえば、依頼者側で評価情報をまとめる作業に追われる必要がなくなると捉えて良いだろう。
相続開始~申告期限となる10ヶ月間は、美術品の相続税評価以外にも遺産分割協議を含めた多くの手続きに追われるため、専門的なことはなるべく鑑定士に任せるのが効率的な遺産相続に繋がると言えるだろう。
相続税評価に向けた鑑定の料金相場
書画骨とう品評価鑑定書の作成をゴールとする美術品の評価を依頼するためには、各社が設定する評価手数料を払わなければならない。
比較的良心的な料金設定をする業者では、申込み1件につき20,000円、美術作品1点につき2,000円、出張料や交通費は実費という形で評価鑑定を行っている。
中には美術品・骨董品1点に対して10,000円~20,000円の手数料をとる業者もあるため、依頼予定の個数が多い場合は相見積もりをとることも必要だと言えるだろう。
お客様に適した提案のできる業者がおすすめ
美術品の相続税評価の実績が豊富な専門店では、ただ鑑定書を作るだけでなく、お客様の多くが望む節税や効率的な遺品整理、売却に繋がる提案も行える。
また鑑定書を作る専門店では、基本的に自社における買取査定額をベースに評価を付けていくため、遺産相続手続きが終わった後、急な入用による現金化に迫られた時にも相談のしやすい存在になると捉えて良いだろう。
美術品に係る税制優遇措置
精通者によって高い評価のついた美術品がたくさん存在し、他の相続財産との総額で基礎控除分を超えてしまった場合は、相続税の納付が必要になってくる。
しかし美術展示への関心が高まっている今の時代は、文化庁にて美術品等に係る税制優遇措置を設けているため、「不要な美術品を地域社会に役立てたい」とか「効率的に節税を行いたい」といった皆さんは、この制度の利用で美術品や骨董品、工芸品などを寄付してみても良いだろう。
寄付の場合の優遇措置
文化庁で設けている美術品等に係る税制優遇措置は、取得した相続財産を申告期限までに国、公益事業者、地方公共団体に贈与した場合は、その財産が相続税の課税額に含まれなくなるという制度だ。
高価な美術品は相続をした家族が保管や管理に頭を悩ませる傾向があるため、「亡くなった被相続人以外は扱えない」といった状況に陥っているなら、この制度を検討してみても良いかもしれない。
後から課税されることもある
寄付した日から2年後までの間に公益法人がなくなったり、贈与した財産が同日までに公益事業以外に供されてしまった場合は、相続税の申告後に課税される可能性も出てくる。
この場合の評価についても、精通者による意見や売買市場による価格がベースとなるため、その内容が相続開始時と大きく異なる確率は低いと捉えて良いかもしれない。
物納制度
故人が残した相続財産の大半が現金以外で、金銭での相続税納付が難しい場合は、物納制度の利用もできる。
しかしこの制度では、1位~3位までの順位があるため、その中で最もランクの低い動産に含まれる美術品は、不動産や船舶、社債などより早く物納することはできないと捉えて良いだろう。
登録美術品制度
そこで、もし国で定めた順位により物納制度の利用が難しく、また世界の誰もが注目するような優れた美術品を所有している被相続人・相続人には、国に作品を登録することによって美術館で公開できる登録美術品制度の利用もおすすめだ。
このシステムを利用すると、普通は第3順位となる美術品を不動産や国債と同じ第1順位にすることができる。
この制度の活用は美術品の保管や管理といった相続人の負担軽減にも繋がるため、さまざまな人にメリットをもたらす存在と捉えて良いだろう。
まとめ
今回は、美術品の遺産相続で欠かせない、相続税評価に関する手続きの流れや仕組みについて細かく整理をしてみた。
美術品の評価を含めた遺産相続手続きは、相続開始から10ヶ月以内に行うルールとなっている。
被相続人に負の遺産がたくさんある場合は、相続放棄などの検討も3ヶ月以内に行う必要が出てくるため、もし被相続人がたくさんの美術品や骨董品を所有しているなら、早めに精通者となる古美術商や美術品買取専門店を見つけておくことも必要だと言えるだろう。