11月21日、DMM.comがCASHを運営する「BANK」を子会社化し、70億円で買収した。DMMの社長である亀山氏から「こんにちは!亀山です〜!」などといった軽いノリのメッセージが届いたのが10月4日の深夜、そしてそこから買収に同意したのが10月31日で、話が持ち上がった10月4日から11月21日まではわずか48日と超スピード買収だった。
この裏では一体何が起きたのだろうか。またDMMはBANKの何を見て、BANKはDMMの何を見て買収/売却を決定したのだろうか。今回は怒濤のDMMがBANKを買収したことについて詳しく深掘りしていく。
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きっかけはDMMの社長・亀山氏からのメッセンジャーだった
DMMがCASHを運営している「BANK」を買収したきっかけは、DMMの社長である亀山敬司氏からのメッセンジャーだった。
10月4日の深夜1時48分、亀山敬司氏からBANKの社長である光本勇介氏にFacebookにあるメッセンジャーで、「こんにちは!亀山です〜!」「CASH売って〜!」「無理?」というメッセージが届いた。
ものすごく軽いメッセージだが、11月21日にDMM.comはBANKの全株式を取得し子会社にする。買収自体は10月31日に合意したようなので、わずか1カ月程度でBANKは70億で買収されることになる。
通常買収は大変時間がかかるもの。まず売り手とM&Aアドバイザーが契約をし、提案資料を作成、それから簡易的な売却情報が書かれた提案をし、買い手が興味を示したらトップによる面談が行われる。
ここで疑問が解消されたらデューデリジェンスなどが行われて買収成立となるが、3〜12カ月ほどかかる。
一応今回の買収ではデューデリジェンスもしたようだが、書類ではなく口頭でコミュニケーションは交わされ、5日でお互いが合意した。
さらに通常では「ロックアップ」と呼ばれる、買収先の企業で事業を広げていく期間が設定されておらず、こういったところからもスピード買収であることがうかがえる。これについて光本氏は「ロックアップは意味がないと思っている。経営者のモチベーションを上げたり、事業を付け加えるよりいい経営者に入ってもらうことが大切」だと語っている。
なぜDMMはBANKを買収したのか
どうしてDMMはBANKを買収したのだろうか。それにはBANKとDMMの思惑が一致していたことがあった。
BANKはCASHの事業を拡大させていきたいと思っていた。CASHは今持っているアイテムの写真を撮ると瞬間的にキャッシュに換えてしまう…というアプリで、現金にしたあとは返金する、もしくは写真を撮ったものを手放すかが選べ、手軽に手元のアイテムを換金できる。
CASHはかなり画期的なサービスで、リリース後16時間でサービス停止。その間に29,000ものダウンロードがされ、72,000のアイテムがキャッシュ。その総額は3億円にもなり、すさまじい反響があった。
これだけ人気になったのはその画期的なサービス内容もあるが、ユーザーに「フリマ疲れ」「オークション疲れ」があることも挙げられる。
フリマアプリやオークションアプリでは確かに売れれば不要品でお小遣いを稼げるが、売るまでにキレイな写真を撮影しさらに書いてからの質問に答えなければならず、手間暇がかかる。
それに加えて梱包をしっかりしなければ評判は落ち、さらに買い手の中には厄介な買い手も存在しているので、そういった人への対応もしなければならない。
それだけに「面倒」だと感じる人もおり、その分資金やスタッフの労働力などといったリソースが当初の想定より大幅に必要となってしまった。
こういったポテンシャルがあるサービスのCASHだが、光本氏は「需要があると競合も厳しくなる」と読み、市場が大きくなるなかで自己資本が欲しいと思っていた。最初は資金調達をしようかと考えたが、ここでアクセルを踏まなければならず、そんななかで亀山氏からの話があったのだ。
DMMについて光本氏はいいイメージを抱いていた。「現代の超クールな総合商社で、ゲームから水族館、金融までたくさんの事業をしているが、一方で僕たちのようなベンチャー企業の買収を数日で決める。“ぶっ込んでいる会社”はない。大きい市場に出たいときに、挑戦する会社がサポートしてくれるのは心強い」ということで、買収には前向きだった。
DMM.comの代表取締役社長である片桐孝憲氏は、CASHについて「同年代の経営者である光本氏を自社に欲しかった」としながらも、「以前光本氏が作ったブラケット社をイグジットした上で2回目の起業でもいいサービスを作っていると思った。もともとDMM社内でもCASHに似たサービスをしたいと考えていたが、チームまでは同じものは作れないと思った」とし、CASHを高く評価していた。
DMMとCASHのコラボでサービス向上を狙う
DMMとCASHがタッグを組んだことにより、今後はさらなるサービス向上が見込まれる。そもそもDMMは大企業であるため、膨大な企業運営体力が必要なCASHのサービスを安定化させてくれるだろう。
CASHはカメラでアイテムを撮影しそのアイテムを瞬間的にキャッシュするというものだが、これの精度を上げるためには画像認識の技術を向上させなければならない。
そのために、買収前後の数ヶ月前は関連企業とのコンタクトを進めているようだ。
新事業も検討
高度な画像認識の技術を使えば、新事業も考えられる。光本氏は「究極は物を見れば値段が浮かび上がる世界観」だそうで、その実現のためにはさまざまなハードルがあり、そのためにDMMのリソースを使うことが考えられる。
実際DMMには人工知能関連の研究所である「DMM.AI」を作る話が持ち上がっており、CASHなどで使われることも考えられている。
もしCASHで人工知能が使用されれば、画像解析の精度が飛躍的に上昇し適切な買い取り価格の表示につながる。
また新事業ではないものの、CASHはユーザーの「性善説」に立って考えられたアプリで、もし買い取りに合意してもアイテムを送らない場合、CASH側はその分損をしたこととなる。
買収時のインタビューでは「ちゃんとアイテムを送ってきてくれた人が大半だった」としているが、もし人工知能が取り入れられれば売り手を高い精度で判断でき、効率的なキャッシュフローができるようになるだろう。
そのほかにもDMMとタッグを組んだことでさまざまな相乗効果が期待できるため、CASHのような世間をあっと驚かせるようなサービスがまたできるかもしれない。
DMMとCASHのタッグに今後も注目
CASHは「写真でアイテムを撮影するだけで鑑定してくれる」ということで、2017年の夏に大きな話題となった。そのCASHとこれまでにさまざまなムーブメントを起こしてきたDMMがタッグを組むことにより、斬新なアイテムを買い取るサービスが出てくるかもしれない。そしてそれがリユース業界に大きな革命をもたらしてくれるかもしれない。
いずれにせよ、先見性を持ったサービス作りがとてもうまい2社。今後の流れにも注目だ。