日本では「ノモス」と聞いてドイツの時計ブランドと言える人はあまり多くはないだろう。日本での取り扱い販売店もそれほど多いとは言えず、派手な広告戦略も行っていないため、なかなか知る機会が少ないというのが実情だろう。正しい社名はノモス グラスヒュッテ(NOMOS Glashütte)。創業は1992年の新興メーカーだ。
グラスヒュッテは、A.ランゲ&ゾーネの創業者、フェルディナンド・アドルフ・ランゲが自ら乗り込んで弟子を育て、やがて一大時計産業地域にまで発展した土地。第二次大戦後ドイツが東西に分断されたことで、彼の地は東ドイツに属し、機械式時計の生産は止まっていたという。
しかし、東西冷戦の終了とともにこの地に乗り込んだデザイナーのローランド・シュベルトナー氏が、かつてあったブランドを再興する形で新しいコレクションを発表。シンプルで機能的、かつムダのないデザインが評価され、そのブランド名が一躍有名になった。
2005年にはムーブメントを自社開発し、マニュファクチュールの道へ。そして2014年にはヒゲぜんまいまで自社で製作した調速脱進機、「ノモススイングシステム」を発表し、その技術力の高さを実証した。
全ての製品に自社製ムーブメントを搭載し、機械式時計に並々ならぬ情熱を注ぐノモス グラスヒュッテ。それでいて超高級路線に走らずシンプルな美しさを基調とした製品を作り続ける姿勢は、もっと日本でも評価されてしかるべき存在だ。ここでは、そんなノモスの型番とモデル名の関係性について調べてみたので、詳しくお伝えしていきたい。
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ノモスの型番について
まずは、ノモス製品の型番について確認しておきたいことがいくつかあるので説明しておきたい。なにしろノモスの型番で特徴的なのは、型番=リファレンス番号が2つあるということだ。
メーカー設定の番号とはかなり異なる「日本用型番」
ノモスの型番で特徴的なのは、型番=リファレンスナンバーが2つ存在することだ。ノモスの公式サイト(https://www.nomos-glashuette.com/ja/)によると、たとえばノモスを代表する人気モデル「タンジェント」のリファレンスナンバーを、次のように記載している。
リファレンス番号
- スチールバック:101
- シースルーバック(サファイアクリスタルガラス製):139
日本でのリファレンス
- スチールバック: TN1A1W1
- シースルーバック(サファイヤクリスタルガラス製): TN1A1W2
ケース素材がステンレススチールの「タンジェント」には、ケース裏が通常のスチールバックのモデルと、クリスタルガラスでシースルーになっているモデルの2つがあって、その両方にリファレンスナンバーがある。つまり、前者の型番が「101」で、後者の型番が「139」なのだが、どうやらこれは海外でのみ通用する型番のようだ。
試しに公式サイトを英語やドイツ語、中国語のバージョンで確認してみたところ、外国での「タンジェント」の型番は「101」と「139」しか記載されていなかった。
従って日本国内での「タンジェント」の型番は、スチールバックがref. TN1A1W1、クリスタルバックがref.TN1A1W2ということになっているようだが、この英数字は、海外バージョンの型番とは似ても似つかない。また、なぜ海外と共通にしないのかは不明である。
各人気モデルシリーズの型番を比較する
さて、今度はノモスのリファレンスナンバーを読み解くために、各モデルシリーズの型番同士を比較してみた。各時計のスペックはケース素材(直径)/文字盤色/ストラップかブレスレット(色)/ムーブメントの種類/ムーブメント名としている。
タンジェント:ref. TN1A1W1/ref.TN1A1W2
ステンレススチール(35mm)/ホワイトシルバーメッキ/シェルコードバン(ブラック)/手巻き/α(アルファ)
タンジェント・ネオマティック:ref.TN130011W2
ステンレススチール(35mm)/ホワイトシルバーメッキ/シェルコードバン(ブラック)/自動巻き/DUW 3001
タンゴマット:ref.TN1E1W1/ref.TN1E1W2
ステンレススチール(38.3mm)/ホワイトシルバーメッキ/シェルコードバン/自動巻き/ε(イプシロン)
アホイ ネオマティック シグナルブルー:ref.AH130011SB2
ステンレススチール(36.3mm)/シグナルブルー/テキスタイル/自動巻き/DUW 3001
メトロ パワーリザーブ デイト:ref.MT1D4W2
ステンレススチール(37mm)/ホワイトシルバーメッキ/シェルコードバン/手巻き/DUW 4401
テトラ クリーネ:ref.TT1G1KL2
ステンレススチール(29.5mm×29.5mm)※スクエアケース/ターコイズ/ベロアレザー/手巻き/DUW 4301
クラブ ネオマティック アトランティック:ref.CL130011AT2
ステンレススチール(37mm)/アトランティックブルー/テキスタイル/自動巻き/DUW 3001
ラムダ ローズゴールド:ref.LA3DR3W2
18Kローズゴールド(42mm)/ホワイトシルバーメッキ/シェルコードバン/手巻き/DUW 1001
ここまでいくつかのモデルのリファレンスナンバーを比較してきたが、おぼろげながら浮かび上がる共通性、法則性がうかがえる。たとえば、ノモススウィング システムを搭載した新しい自動巻きムーブメント、DUW 3001の搭載モデルは、リファレンスナンバーにそのまま「3001」の数字がはまっている。
ということは、他のナンバーでもこの箇所はムーブメントの種類を示している可能性が高い。次章でいくつかわかったことを確認していこう。
ノモスの型番のコード
ここからは、前章で比較した各モデルのリファレンスナンバーをもとに、判明したそれぞれの英数字のコードを説明していきたい。
冒頭の2字が各モデルシリーズを表す
各モデルの型番の冒頭アルファベット2文字は、そのまま各モデルシリーズの英字からとってきている。つまり、一部を除いて冒頭の2文字でモデルシリーズ名がわかるようになっているようだ。各モデルシリーズのコードは以下のようになっている。
- タンジェント:TN
- タンゴマット:TN
- アホイ:AH
- メトロ:MT
- ミニマティック:MM
- クラブ:CL
- ラドウィッグ:LD
- チューリッヒ:ZR
- テトラ:TT
- オリオン:OR
- ラックス:LU
- ラムダ:LA
なぜか「タンジェント」と「タンゴマット」は同じ「TN」を使用しているので、この2モデルだけ、どちらかは見分けがつかない。
3ケタ目の数字はケースの素材を表す
冒頭2文字のアルファベットの後の数字は、基本的に「1」が多い。しかし、「ラムダ ローズゴールド」の時には「3」になっている。つまり、この数字は明らかにケースの素材を表していると考えられる。ノモスの時計はステンレススチール素材のケースが多いので、ほぼどの型番も「1」だが、探してみると以下のようなコードとなっていた。
- ステンレススチール:1
- ローズゴールド:3
- ホワイトゴールド:4
コードと言ってもノモスのケースの素材は上記の3つでほぼまかなわれていた。「2」がどこかにあると思われるが、型番落ちした可能性もある。
ムーブメントを示すコード
前章でも指摘したように、ノモスの日本用リファレンスナンバーの4ケタ目、もしくは4ケタ目以降の数文字でムーブメントの種類を示すコードが入っていると思われる。
- α(アルファ)→A
- ε(イプシロン)→E
- β(ベータ)→B
- ζ(ゼータ)→Z
- DUW 3001→3001
- DUW 1001→DR
- DUW 2002→DT
- DUW 4401→D(?)
- DUW 4301→G(?)
- DUW 4101→B(?)
- DUW 5201→X(?)
「?」がついているのは、サンプルが少ないために確証が得られない。また、「β」のBとDUW4101のBで重なりが見られる。ただし、ムーブメント「β」はノモスの公式サイトのムーブメントのラインナップから消えているので、早晩代替わりしていくと思われる。そして、DUW3001はノモスの中でも画期的なムーブメントだからか、番号がそのまま入れられたのだろう。
ムーブメントへのこだわりがドイツ同様に色濃い日本向けのリファレンスナンバーならではの現象かもしれない。
文字盤の色を示すアルファベット
前章の型番の例をもう一度眺めていただこう。末尾2ケタ目(あるいは2~3ケタ目)に「W」や「SB」等のアルファベットが入っている。これは恐らく、文字盤の色を示しているアルファベットと考えられる。過半数以上のモデルの文字盤が白を基調とするノモスの時計は、型番の後方にはだいたい「W」が入っている。
- W:ホワイト
- G:グレー
- SB:シグナルブルー
- SR:シグナルレッド
- AT:アトランティックブルー
- CH:シャンパンゴールド
- UG:アーバングレー
- BL:ブルー
上記以外にいくつか例外もある。たとえばref.TT1G1KL2(テトラ クリーネ)の「KL」やref.TT1A1GE2(テトラ ゴールドエルス)の「GE」は、色ではなくモデル名からとられたアルファベットが入っている。当該機種固有の色ということであろう。
末尾の数字のコード
やはり前章の型番の例の、末尾の数字を見ていただきたい。ここが「1」の場合は通常のケースバック(中は見えない)、「2」の場合はクリスタルガラスによるシースルーバックの仕様ということになる。マニュファクチュールとしての技術力も名高いノモスだけに、購入の際には末尾「2」のシースルーバックを選ぶべきだろう。
もちろん、その設定がないモデルもあって、その場合も末尾は「1」だ。ただし、モデルによってはこの数字の後にアルファベットや別の数字が続くナンバーもある。ノモスの型番はケタ数が一定ではないので、ここは判別しにくいところ。購入の際にはしっかり現物を確認しよう。
ノモスの時計はモデルで選ぶかムーブメントで選ぶか
ここまで、ノモス グラスヒュッテのリファレンスナンバーの特徴について紹介してきた。まず覚えておきたいのは、この時計ブランドの本来のリファレンスナンバーは単なる3ケタの数字であること。
たとえば香港や中国の中古市場で掘り出し物を見つけたとして、型番が日本とは全く異なるので、この記事に書いてきたことは全く通用しない。非常に残念だが、海外で購入する際には、公式サイト等で3ケタ数字のリファレンスナンバーを確認することをおすすめする。
一方、日本向けに作られたノモスの腕時計のリファレンスナンバーは、その数字やアルファベットから、ある程度のモデルが判別できるようになっていた。特に冒頭のアルファベットで、どのモデルか判明するのはわかりやすい。
代表的なのは、「タンジェント」、「タンゴマット」に加え、アラビア数字とレールウェイ目盛りが美しい「ラドウィグ」、トノーケースの「テトラ」をおすすめしたい。
そして、正真正銘のマニュファクチュールでもあるノモスの魅力は、そのムーブメントにもある。日本向けのリファレンスナンバーにムーブメントのリファレンスそのものを入れてきたあたりに、その自信がうかがえる。ケースバックがサファイアクリスタル仕様のモデルを選んで、ムーブメントの動きを堪能してみるのも悪くない選択だ。