SMWSは貯蔵樽のなかの原酒を買い取ってそのまま瓶詰めして会員に販売している組織だ。ラインアップには世界各地の蒸溜所の個性的な原酒がずらりと並ぶ。ジャパニーズウイスキーではまず2002年にニッカウヰスキーの余市蒸溜所の樽が選ばれ、翌年サントリーの山崎蒸溜所と白州蒸溜所が続いた。
今回紹介するSMWS 120.1 白州21年は、何といっても”ミズナラ樽”で熟成された原酒であるというのがポイントだ。そこで、ウイスキーの熟成過程や樽の種類について紹介しながら相場情報を見ていくことにしよう。かなりのプレミアムがついているので注目してほしい。
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ウイスキー熟成に使われる樽
ウイスキーを熟成するための樽にはオーク(ヨーロッパナラやホワイトオーク)が使われてきた。もとをただせばそれは偶然の結果だ。豊富に手に入る木材で、樽づくりに適していたというだけのことだった。しかし奇遇というべき偶然が重なって、ウイスキーの公式ができあがったのだった。
密造酒から生まれた琥珀色のウイスキー
大麦からつくられる蒸溜酒は「生命の水(ラテン語でaqua vitae)」と呼び習わされて広まった。これがスコットランド・ゲール語で「uisge beatha」となり、のちに英語の「whisky」になったといわれている。
この生命の水は長いこと無色透明だった。蒸溜された液体は熟成の過程を経ずに飲用されていたのだ。樽は熟成のためではなく単に保存のために使われていた。18世紀のイギリスで酒づくりに重税が課されると、それを逃れるためスコットランドの山奥で密造酒づくりに励む者が出た。そして売りどきを待って密造酒を樽に詰めて何年も隠しておいたところ、中身があの色合いと風味に変化していたというわけだ。
熟成は樽のおかげ
オークという素材、樽の形や大きさが、たまたまウイスキーの熟成にぴったりだった。
樽材から溶け込む成分は、蒸溜液の成分と組み合わさって複雑な化学変化を起こす。また、樽板を介して揮発成分が抜け出したり外から水分が入ってきたりすることで、周囲の環境との間で呼吸がおこなわれ、熟成が進む。樽がどんな環境のなかでどのように置かれるかも関係する。そうした絶妙な塩梅で10年20年とかけて芳醇な酒ができあがっていくのだ。
日本ならではのミズナラ樽
ミズナラ樽はサントリーが使いだしたものだ。戦時中にオーク樽の輸入が困難になり、日本の木材で樽をつくらねばならなくなったとき、選ばれたのがミズナラだった。ヨーロッパオークなどと同じコナラ属の木だ。
ミズナラ樽の香り
当初は木の香りがきつすぎて不評だったが、原酒の熟成に繰り返し使われるうちに樽もまた化けた。白檀(びゃくだん)や伽羅(きゃら)を思わせるふくよかな香りを原酒に与えるようになったのだ。
ミズナラ樽熟成から生まれる独特な(東洋的な)香りは海外でも高く評価されている。また、甘い味わいもミズナラ樽の特徴の1つとなっている。
ミズナラ樽の広がり
サントリーの蒸溜所以外でもミズナラ樽は使われている。例えばイチローズ・モルトの秩父蒸溜所。シェリー樽などに加えてミズナラ樽が熟成に使われており、大麦麦芽を発酵させる桶もミズナラ製だ。海外のスコッチやバーボンの蒸溜所でもミズナラ樽は使われ始めている。シーバスリーガル ミズナラ 12年はミズナラ樽を後熟(マリッジ)に用いている。
SMWS 120.1 白州21年の特徴
ジャパニーズウイスキーの売りの1つになっているミズナラ樽だが、白州の市販のラインアップにはミズナラを前面に出したものは今のところ存在しない(山崎には山崎ミズナラのシリーズがある)。
したがってミズナラ樽シングルカスクのSMWS 120.1 白州21年は希少価値が非常に高い。これを白州蒸溜所の第1弾に選んだのはSMWSらしい選択だといえるだろう。
ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)とは
冒頭に述べたとおり、SMWSは樽そのままの原酒を会員に販売する組織だ。スコットランドのエディンバラで結成され、今では世界各地に支部を持ち日本にも支部とウェブサイトがある。
樽そのままということは、シングルカスク、かつ、カスクストレングスでノン・チルフィルタードであることを意味する。一つ一つの樽に眠る熟成された原酒をそのまま味わいたい、という贅沢な趣味を実現するのがSMWSの目的であり醍醐味だ。
樽にこだわるSMWSの哲学はボトルのネーミングにも現れている。SMWS 120.1 白州21年の正式名称はただの”120.1”で、SMWSが120番目に選んだ蒸溜所の1番目の樽であることを表している。その代わりというのか、原酒の特徴を表現したタイトルが添えられる。”120.1”は砂糖がけのキャラメルとマデイラ・ケーキだ。
SMWS 120.1 白州21年の味わい
公式テイスティングノートによると、豊かで上品な香りと甘やかな味わいが評価されているようだ。これはSMWSから出ている他のミズナラ熟成ウイスキーにもいえる。山崎蒸溜所のSMWS 119.12や余市蒸溜所のSMWS 16.15がそうだ。
ピート感が持ち味の”余市”もミズナラのシングルカスクでは趣が異なるようで、「Not peat for peat’s sake(ピートのためのピートではない)」というタイトルが付けられている。
SMWS 120.1 白州21年の相場
希少な”白州ミズナラ”ということで、中古相場はかなりのプレミアム価格となっている。希少性ゆえウェブ上で確認できる価格情報は限られているが、以下に2019年3月24日現在で収集できた相場情報を紹介しよう。
なお、販売方法が特殊である上に販売年が2003年と古いこともあって、SMWS120.1 白州21年の販売価格は残念ながら筆者には不明だ。ただしSMWSのボトルには極端な価格差はなく、熟成21年以上だと2万円弱から4万円ほどなので、SMWS 120.1の価格もこの辺りに属すると思われる。
業者の買取価格
買取価格の公表数ではウェブ上でナンバーワンといってもいい大黒屋では、SMWS 120.1 白州21年の買取上限価格が172,000円となっている。他のSMWS白州は46,000円~75,000円だから、やはりミズナラ樽の希少性が利いているようだ。
ヤフオクの落札相場
2018年2月から2019年3月の間の落札例は1件のみ。380,000円という高額で落札されている。発売価格の少なくとも10倍程度のプレミアムになっている。
他のSMWS白州の例を見ると、”120.6”で83,000円、”120.7”で96,000円と100,000円、”120.8”で90,000円、という落札額が確認できる。やはり”120.1”は別格のようだ。
海外のオークションサイトの相場
ヤフオクの1件だけではなんともいえないので、海外のオークションサイトも覗いてみた。
Whisky Auctioneerというサイトでは2015年10月にSMWS 120.1が800ポンドで落札されている。3月24日のポンド相場(1ポンド約145円)で計算すると116,000円になる。SMWS 120.1はこれ1件きりだが、白州蒸溜所のSMWSボトルは38件の落札例がある。2015年頃には他のナンバーは300ポンド前後で、120.1はやはりずば抜けている。
年を追うごとに平均相場が高まって、2018年以降は2015年時の2倍ほどになっている。2018年8月には120.7が1,050ポンド(約152,250円)で落札されている。
Scotch Whisky Auctionsというサイトでは120.1の落札は4件確認でき、最も新しい2019年3月の落札例では2,500ポンド(約362,000円)となっている。ヤフオクの例に近い。Whisky Auctioneerでも今120.1が出品されたらこの価格帯になりそうだ。
SMWS 120.1 白州21年を高く売るには
海外のオークションで見られた相場の上昇にはウイスキーブームが影響していると思われる。ブームの先行きについては誰も正確に予測できないが、まだ続くものとみても不合理ではない。
SMWS 120.1 白州21年はご覧のようにかなりのプレミアムが期待できるが、もう少し様子を見るのも手だろう。その場合、保管方法には十分注意してもらいたい。あるいはこの今だからこそ売るというのも悪くないかもしれない。少しでも高く売るには売り方のポイントを抑えておきたい。
高く売るための保管方法のポイント
中身、ボトル、ラベル、付属品(箱など)、すべての状態が問題になる。
直射日光があたるところや高温の場所に保管すると中身が変質しやすいし、ラベルやボトルには変色の恐れがある。かといって普通の冷蔵庫では温度が低すぎてやはり変質をきたす。湿度が高すぎればボトルやラベルにカビが生えたりする。強い匂いに長くさらすのも良くない。寝かせて保管するとキャップやコルクの匂いが移るといわれていて、ウイスキーは立てて保管するのが基本だ。
キャップやコルクの隙間から中身が蒸散して”目減り”するという問題もある。パラフィルムをキャップの周りに巻き付けておくといいといわれている。
付属品の箱は保存にも役立つし、あるとなしでは売却額に差が出るので、決して捨てたりしないことだ。
業者への売り方のポイント
業者に売る場合は、複数の業者を比較するのが鉄則だ。SMWS 120.1 白州21年ほどの希少品なら業者によってはっきりした差が出るかもしれない。たいていの業者は無料査定を受け付けているし、1回で複数の業者に査定依頼のできる一括査定というシステムもあるのでぜひ利用したい。
オークションの落札額などを元に価格交渉をすることも可能だろう。ぜひ本コラムを参考にしていただきたい。
細かいポイントとしては、手数料の問題がある。出張買取の場合の出張料、宅配買取の場合の送料や返送料、振込手数料などだ。また、買取額増額キャンペーンがおこなわれていることもあるし、同系統の品物をまとめて売れば増額が望める。
ヤフオクに出品する場合のポイント
オークションのほうが金額そのものは高くなる傾向があるが、手間とリスクが大きく、今すぐ換金できるとは限らない。要は目的次第だが、SMWS 120.1 白州21年の落札例を見るかぎり挑戦する甲斐はありそうだ。
価格の設定
開始価格などは自分で決めなければならない。一般的には開始価格を相場よりかなり低く設定すれば注目が集まりやすい。とくに、電化製品やブランドバッグのように同一の商品や競合品が複数出品されている場合はそうだ。SMWS 120.1 白州21年は1点ものみたいなものだからあまり気にしなくていいだろう。
少ない手数料で最低落札価格(これ以下では入札されても落札にならないという金額)を設定できるが、これは入札者には見えないから、敬遠の原因になる。譲れない金額があるならそこから始めるのが素直な手だ。
2人以上の入札者がいて競り合う状況で一番値が上がりやすい。中途半端な高額に設定して入札者が増えないよりは、相場情報を参考にして初めから相場上限近くの”即決価格”で出品したほうがいいかもしれない。
税金などの問題
個人的に消費するために買っておいたウイスキーをヤフオクで売っても、普通は家庭用動産の譲渡と見なされ所得税の対象にはならない。一方、骨董品や貴金属を売って1回に30万円以上になった場合は所得税を申告しなければならない。希少なウイスキーを投資対象として集めている場合は、骨董品などと同列と見なされることは十分にありうる。
また、ヤフオクに定期的に継続して酒類を出品する場合、酒類販売業と見なされ免許が求められるかもしれない(その線引きはあいまいだが)。
まとめ
ウイスキーブームの影響もあってSMWS 120.1 白州21年の相場はかなりのプレミアム価格となっている。様子を見るにしても今売りに出すにしても、考慮すべきポイントはたくさんある。自分の目的や性格というのもポイントになる。ぜひ本コラムを参考にして考えを煮詰め、高値を目指してほしい。