田中貴金属工業が公表している月次金価格推移を見ると、近年、金の相場は高騰し続けている。また有事の金が、1g=6590円と40年ぶりに最高値を更新したというニュースも発表された。この価格上昇のトレンドは今回のコロナショックとどのような関係があるのだろうか。今回はこちらのトピックを深掘りしていきたい。
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金の価値について
金の資産価値の特徴として、地球上に存在する金の有限性があげられる。まずは、金の埋蔵量などをみていこう。
これまで人類が採掘してきた金の送料は、約18万トンほど。一方で、想定されている残りの地中の埋蔵量は約5万トンと言われている。これは、現在の年間3000トンのペースの採掘を続けていくと、10数年後には枯渇するかもしれないという計算になる。
このような希少性は金の普遍的価値を保証している。1万円札の原価は20円くらいなのに対し、日本国政府が1万円の価値を保障しているため、日本はもちろん海外に行っても1万円分の品物を購入する事が出来る。しかし、日本円の価値が相対的に他国の通貨よりも大きく下がってしまったらと考えるとリスクは大きいだろう。金であれば、どこの国でも普遍的に価値が認められているという無国籍通貨としての性質が、金が安全資産と認識され買われている一つの理由だ。
過去50年の金の高騰を振り返る
最初の急騰は1970年ごろ、世界で金本位制が崩れ、金の個人保有規制が緩和された局面だ。コーク大学のファーガル・オコナー氏によると、たまっていた金需要の拡大が解き放たれた。政情不安や経済混乱、投機ブームを背景に、35ドルだった金は80年には800ドル近辺に上昇した。これが天井を付けると、20年にわたる相場低迷期を迎える。各中銀が大量売却に動いたのがきっかけだった。1999年には一時、250ドルまで下がった。そこで潮目が変わる。市場構造が変わったのだ。欧州の各中銀は金売却の協調で合意し、相場は安定した。中国も個人の金保有規制を緩和し、市場での金購入は急増した。金を原資産とする上場投資信託(ETF)も登場、個人が金に投資するのを容易にした。ワールド・ゴールド・カウンシルによると、金の年間需要は2003年から11年にかけて、約2600トンから同4700トン超に拡大した。この相場上昇は、高値を嫌った需要減退で終わる。その後は昨年まで、金価格低迷が続いた。しかし、各中銀の利下げが相次ぐにつれて、債券利回りの低下とともに、利息を生まないはずの金投資の魅力が再び増すことになった。
2008年に金融危機が訪れたのは、直近の金相場上昇局面のさなかだった。つまり、金融危機は値上がりをさらにあおった。 金融危機の初期には金融資産が幅広く急激に値下がりしたため、投資家は換金可能なものは何でも売らざるを得なくなり、金相場が急落する場面があった。新型コロナの世界的大流行が市場のパニックをもたらした今回も、同様のことは起きた。
近年の相場の上昇について
2016年7月に1374ドルまで上昇する場面があったものの、この水準を上値とし、1100ドル台を下値にレンジ相場となり、さえない展開が続いた。だが、投資家が引き続き株式市場への関心を高める中、2018年10月に株価がピークから崩れ、同年12月に「クリスマス・ショック」と呼ばれる株安が到来したことをきっかけに金が息を吹き返し始めた。2019年6月には一時1184ドルまで下落していた金相場だが、株安を受けて投資家がリスク資産から資金を引き出し、債券資金を移す動きを強めたことで金利が低下し、これが金相場を押し上げる原動力になり始めたのである。
コロナショックによる相場変動と今後のトレンド
新型コロナウイルスの感染拡大もあり、金は「安全資産」としての側面からも買われやすくなっている。また、FRBなど世界の主要中銀の緩和的な金融政策の継続もあり、金利のつかない金への投資意欲は今後さらに高まる可能性がある。
直近のニュースでは、バンク・オブ・アメリカ(BofA)が向こう18カ月間の金相場の目標価格をオンス当たり3000ドルに引き上げた。これは現在の最高値を50%余り上回る水準だ。これは、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた経済を支援するため、世界各国の政策当局者が財政や金融政策を通じて巨額の刺激策を投入していることが理由だ。BofAは「FRBは金を造幣できない」と題したリポートを発表し、「経済生産が急激に落ち込み、財政出動が急増、さらに中央銀行のバランスシートが倍増する中、不換通貨への圧力が高まる可能性がある」と指摘、「投資家は金を狙うだろう」と予想している。
このような情報を踏まえ、コロナショックでもさらに金の価値が上がる可能性は考えられるだろう。しかし、一方ではこの3000ドルという目標には、強気すぎると判断し、金価格がさらに急騰することに懐疑的なアナリストも多い。果たしてどこまで価格は上がり続けるのか。今後も相場に注目していきたい。
参考: https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/05/post-93322_2.php