昭和の創作版画史を代表する画家の1人である前田藤四郎。その作品の売却を考えるとき、どの程度の価格で売れるのかは多くの人が興味を持つところだろう。この記事では、その価格の参考情報となるネット上での前田作品の販売価格を紹介する。
併せて画風の説明もするため、前田藤四郎の画業自体について知りたい人にも参考にしてもらえたら幸いだ。
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前田藤四郎とは
前田藤四郎は、昭和の初期から終盤にかけて活躍した版画家である。「20世紀日本人名事典」では、関西創作版画界の長老とも評価されている。前田は1904年に生まれ、高校卒業後に姫路連帯に入隊した。
その舞台で軍旗祭の装飾を担当してからは、隊内で自由に美術作品を制作できる許可を得る。この時期にリノリウムを用いた版画技法を修得した。除隊後に帝展で「都会展望」、春陽会展に「散髪屋」が相次いで入選。
一躍注目を集め、昭和14年には「紅型」などの制作で春陽会賞を受けるなどの活躍を見せた。主な受賞歴に朝日新聞社賞、大阪府芸術賞などがある。
前田藤四郎の版画の作風を9つの作品で説明
前田作品の特徴を把握することは、作品を安値で買い叩かれないためにも重要なことだ。ここでは、前田の画風や技術の多彩さを見てとれる9つの作品を紹介する。
デパート装飾
1930年代の作品で、大阪新美術館建設準備室に所蔵されている。当時のデパートの様子が生き生きと描かれた作品だ。一つひとつの商品の模様など、細部まで細かく描きこまれている。
用いられている技法はリノカットで、床材にも用いられるリノリウムを使用するものだ。ピカソやマティスが好んで用いたことで知られる技法である。
時計
1932年の作品で、大阪府立江之子島文化芸術創造センターに所蔵されている。これも技法はリノカットで、銅版凸版も使われている。「時計」というタイトルだが、時計は登場しない。
大きな時計のポスターを、男性の右手が指さしている絵だ。男性の左手も写っているが、どちらにも時計はついていない。男性は時計を設計する人間なのか、はたまたポスターなどの写真を見て欲しがっているのか、現代人には真意がわかりづらいが、当時の人ならすぐにわかったかもしれない。
男性の手の影部分に重なるドット模様は、アメリカンコミックのスクリーントーンのようである。時計部分は後に説明する「写真製版」という技術で描かれた。
湖畔
文字通り湖畔の風景を描いたものだが、湖に浮かぶお椀型の島が印象的である。「こんな地形が日本にあるのだろうか」と思う人もいるかもしれない。中国の地形の可能性も高いが、日本であれば中禅寺湖の上野島や、小野川湖の小島などが似ている。
しかし、島より遥かに小さな船が航行している姿が見えるため、これがデフォルメでなければ中国の風景であろう。どこの湖を描いた作品かはわからずとも、版画の王道的なタッチで描かれた、のどかな作品である。
桜島
鹿児島県の有名な火山である桜島を描いたものだ。木版画だが油絵を分厚く塗りつけたような絵肌である。山の岩肌の隆々とした雰囲気が、この絵具の厚塗りのような描き方で、効果的に表現されている。
豪快に描かれている桜島に対して、手前にある街の風景は、まるで現代のイラストのようにリアルかつ細やかに描かれている。まるで違う絵を2つ貼り付けたようだと感じる人もいるかもしれない。このように、まったく違うタッチを同じ絵の中で共存させる手法も、前田が用いていたことがわかる絵だ。
扇面作品集
扇子の面に描かれた作品集である。複数の絵があるが、特に牡丹か芍薬と思われる花の絵は華麗である。木版画で制作されているが、岩絵の具で描かれた日本画を思わせる絵肌だ。
花瓶が現代的であるため、比較的新しい年代の日本画だとわかる。しかし、花瓶がなければ江戸時代の春木南湖などの日本画家が描いたと聞いても、信じる人がいるだろう。それほど伝統的な大和絵のスタイルを踏襲している一枚だ。
婦人帽子店
「デパート装飾」に近い作品である。1930年に制作されたもので、江之子島文化芸術創造センターに所蔵されている。一面に帽子店のショーケースが描かれており、多彩なデザインの帽子が生き生きと描かれている。
画面中央には店舗の奥が描かれており、女性店主と思われる人物が椅子に座っている。当時の富裕層が主な客層だったと想像できるが、同時代にこの作品を見たら格差を感じる人もいたかもしれない。しかし、約90年の時代を経た現代の我々が見ると、富裕層の生活のワンシーンでも何となくのどかに見えるのではないだろうか。
屋上風景
ビルの屋上でバレーボールらしき球技を楽しむ女性たちを描いた絵だ。1930年の作品で、前田がデザイナーとして勤務していた船場ビルディングの屋上だという。女性の体は過剰なまでに立体的に描かれており、キュビズムの影響を感じさせる。たとえば、ジョルジュ・ブラックやフェルナン・レジェなどの一時期のタッチを連想する人もいるだろう。
あるいは、女性たちの動きを見るに、ギリシャ彫刻に影響を受けた可能性も考えられる。いずれにしても他の前田作品とはタッチが大きく異なっており、画風の多様さを感じさせる一作だ。
燕
家の軒先のロープのようなものに止まる燕たちを描いた作品だ。一見電線に見えるが、平屋の屋根より低い場所を走っているため、自宅で何かを支えるための紐だと考えられる。あるいは、電線にしても個人の敷地内の配線であろう。
何にしても、ツバメたちがのんきにくつろいでいる姿がかわいらしい絵だ。「屋上風景」とは異なり、特別な技法がいっさい使われていない、幼児にもツバメのかわいさが伝わるような作品である。特に一番下のツバメが紐から落ちそうな体勢でつかまっている姿を、微笑ましく感じる人もいるのではないだろうか。
道化者
「燕」とは一転して、高度な技術を用いたシュールな絵である。1934年制作で、技法はリノカットと銅版凸版だ。前面の絵は完全な版画だが、後ろ側にある外国人の人物写真には、写真製版が用いられている。
写真製版とは、写真のフィルムを木版などに焼き付け、リアルな版を作る手法だ。当時この手法を版画に導入した画家はほとんどおらず、その点でも話題を集めたという。
前田藤四郎の版画の買取価格
前田作品の買取相場を知るためには、実際にいくらで売買されているかを見るのが特に有効だ。ここでは、Yahoo!オークション(ヤフオク)で落札された作品とその価格を紹介する。情報は2019年7月1日時点のものである。
「西の京・双塔(薬師寺遠景)」の落札価格:6,500円
この作品は2019年6月30日に6,500円で落札されている。奈良県の藤原京にある本薬師寺の2つの塔を描いた作品だ。開始時の価格は5,000円だったが、5日間の入札で6,500円に上昇した。
木版画らしい朴訥としたタッチの作品である。出品者によれば入手困難な作品ということであり、それも価格が上昇した理由の1つであろう。作品右下に印があり状態は良好、額裏には共シールが貼付されているという条件だ。
真作保証があり、額装には少しスレがあるという状態だ。
「幸」の落札価格:2,000円
この作品は2019年6月4日に落札され、2,100円という価格がついている。開始価格は2,000円であったため、出品者の希望とほぼ同額で売れた形だ。作品の詳細は削除されているが、箱がなく共シールがあり、シミや汚れなどがあったこともわかる。
付属品が少ないことも含め、状態は悪かったと言えるだろう。これも落札価格が安かった理由の1つと考えられる。
「名古屋城」の落札価格:4,900円
2019年4月4日に落札されている。開始価格は100円と激安だったが、27件の入札があり、終了価格は4,900円にまで値上がりした。この作品も「幸」と同様、商品画像などの詳細が削除されている。
「倉庫整理品のため汚れやスレが多い」という説明があるのみだ。また、真贋についての保証もない。それでも4,900円で売れたというのは、前田藤四郎の版画や、この「名古屋城」という作品の人気が一定以上のレベルであることを示しているだろう。
前田藤四郎の版画・作品をより高い値段で売る方法
中古市場での価値も高い前田作品だが、さらに高値で売る方法もある。ここではその方法の中でも実践しやすいものを3つ紹介しよう。
共箱・共シールなどの付属品はすべてセットで売る
これはゲームソフトなどの売却でも同じだが、付属品はすべてセットで売るのが鉄則だ。付属品自体に価値があるだけではなく、セットで売ることで状態の良さをアピールできる利点もある。絵画でもその他の品物でも、付属品まで大事に保管している人は、本体も丁寧に扱っているものだ。
逆に、付属品を紛失している人は本体の管理もずさんであることが多い。そのような先入観を持たれると、査定でも安値を提示されがちだ。そうした不利が生じないよう、付属品は必ずセットで査定に出すようにしたい。
複数の画商・古書店・買取業者から相見積もりをとる
どんな分野でも、業者と交渉するときは相見積もりをとるのが基本だ。業者同士に競争してもらうことで、売るときも買うときもこちらが有利になる。前田作品を販売するなら、画商や絵画買取業者だけでなく、古書店も候補に入れて相見積もりをとろう。
山田書店など、名作を取り扱っている古書店も存在するためだ。できるだけ多くの業者で査定を受け、高値で買い取ってくれるところを探そう。
自分で売るならネットオークションやフリマアプリを使う
業者の査定に出しても満足できる価格が提示されなかった場合は、自分で売るという選択肢もある。このときは、ネットオークションやフリマアプリなどのツールを活用しよう。ネットオークションなら、このサービスの代名詞とも言えるYahoo!オークションを利用するのがおすすめだ。
買取相場の段落でも紹介したとおり、実際に前田作品が出品され落札されている。フリマアプリについては、メルカリとラクマをおすすめしたい。どちらも若い世代の利用者が多いが、中高年の利用者も増加している。
今後、前田の作品も以前より活発に売買されるようになるだろう。
おすすめ買取業者 総合美術買取センター
買取価格
スピード
手数料
許可番号
ポリシー
ウイルス
対策
前田作品を買取業者に売るなら、総合美術買取センターを特におすすめしたい。同社は絵画から西洋アンティークまで、さまざまなアート作品を買い取っている。それぞれの分野で専門の鑑定人がついており、20年以上の豊富な鑑定経験を活かして、作品の価値を適正に評価してくれる。
前田作品についても、創作版画に精通したハイレベルな鑑定人が、その価値を理解して高い値段で買い取ってくれると期待できる。査定の方法はLINEやメールなど多様な方法から選択でき、費用もかからない。業者に前田作品を売ることを考えている場合、同社も候補に入れてみるといいだろう。
まとめ
前田作品に限らず、美術品が手元にあるなら業者の査定を気軽に受けるべきだ。大体の価値を把握しておくだけでも、いざ売却が必要になったときスピーディーに動ける。
また、想定外の高値がついたらそのまま売却すればいい。そうしたうれしい誤算が生じる可能性もあるため、まずは気軽に前田作品を業者の査定に出してみてはいかがだろうか。