シフトレバーは、ブレーキをかけることと、変速することの2つを可能にするパーツである。近年では電動変速システムも登場している。本稿では、主要コンポーネントメーカー3社での相違点を交えながら、シフトレバーが担う役割、電動変速の変遷について述べる。
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シフトレバーの機能
ブレーキと変速機を操作するためのパーツである。一つのパーツで、2つの機能を持っていることからシマノは「デュアルコントロールレバー」とも呼ぶ。性能の良し悪しは操作の軽さ(=力の伝達ロスが少ないこと)、速さ(=ブレーキかけたいと思った時にすぐブレーキがかかること)、製品自体の軽さ、で決まる。
日本国内で組み立てると、「右側レバー→前輪ブレーキとリアディレイラー変速」「左側レバー→後輪ブレーキとフロントディレイラー変速」という組み合わせになるが、海外では逆になることが多い。そのため、一部のフレームでは日本式の組み合わせでワイヤーを通すと、ブレーキの効きが悪くなることもある。
操作方法と呼び方はメーカーによって異なるが、「手前に引くとブレーキがかかる」という点は共通している。メーカーごとに見ていこう。
シマノ
呼び名は「STIレバー」もしくは「デュアルコントロールレバー」である。横から見ると1つのレバーが大小2つに分かれていて、小レバーのみ操作するか、一斉に操作するかでシフトアップ/ダウンを使い分ける。
シマノの製品といえばその驚異的なコストパフォーマンスに特徴づけられるが、シフトレバーも例外ではない。例えば、ミドルグレードの105シリーズでありながらも、最上級のデュラエースと遜色ない変速の軽さを実現している。今や、機械式のデュラエースにする実用上のメリットはその軽さ(105:486g、デュラエース:365g)のみで、機能面での差は殆ど無いという人さえいるほどである。
難点としてあげられるのは、後述の2社と比べてデザイン性に欠けるということである。シフトレバーの構造上、手先の感覚が失われると操作が難しくなることも難点であろう。
カンパニョーロ
変速とブレーキの両方を一つのレバーで行えるシステムを「エルゴパワー」と呼び、レバー自体を「ウルトラシフト」「パワーシフト」と呼ぶ。一回の操作で複数段の変速が可能な多段変速に対応していること、そして職人のこだわりや美学を感じさせる製品としての美しさが売りである。ブレーキ機能を担うシフトレバーとは別に、親指の位置にスイッチがあり、これらでシフトアップ/ダウンを分担する。
スラム
カンパニョーロと同様、システムを「ダブルタップ」と称し、レバーそのものは「ウルトラシフト」「パワーシフト」と名づけている。
メリットとしては、高い操作性があげられる。上記二社は、シフトアップとシフトダウンそれぞれにレバーがあったが、「ダブルタップ」においては、一本のレバーでシフトアップ/ダウンを行える。浅く押し込むとシフトアップ、深く押し込むとシフトダウンが可能である。
シフトレバーの変遷
1980年代まで長きにわたってコンポーネント市場を握っていたのはカンパニョーロだった。レース開催数や関連メーカー数に裏付けられるように、自転車の本場はヨーロッパであり、そのヨーロッパ市場でカンパニョーロというメーカーは優位な立場にあった。
その当時、変速とブレーキは別々のレバーで行っていた。ブレーキレバーがハンドルに、変速レバーがフレームのダウンチューブについており、変速の際にはその都度ハンドルから手を離し、変速レバーを動かして、またハンドルを握る、ということを繰り返していた。平地では50km/h、下りでは80km/hを超えることもある自転車レースでは、変速に伴う片手操作が命取りになりかねなかった。
ところが1991年、日本の自転車メーカー、シマノが変速上の利便性を向上する革新的なシステムを発表した。ブレーキレバーとシフトレバーを一体化した「デュアルコントロールレバー」を投入したのである。手を離さずとも変速が行えるこの製品は、変速の精度が勝敗を決するロードレース界で受け入れられるようになり、ヨーロッパを含む全世界に普及していった。
これをうけて、カンパニョーロもほぼ同時期に「エルゴシステム」を発表した。「ブレーキはブレーキ屋の仕事」「変速機は変速機屋の仕事」的な、仕事を住み分ける気風が残る中での反発はありながらも、シマノに追従したのだった。逆に、既存の変速方法に固執した他のメーカーは、次第に市場の第一線から退いていった。価格と性能面で勝るシマノが徐々にシェアを広げ、シマノ製品に互換性のあるパーツを供給していたスラムが2005年に独立した。こうしてシマノ、カンパニョーロ、スラム3社が出揃うこととなった。
変速機とその電動化
自転車における変速は、「ディレイラーが動き」、「変速先のギアにチェーンが誘導される」ことによって完了する。ディレイラーを動かす動力に注目して電動変速が誕生した。変遷を振り返る。
伝統変速システムの登場
従来は、シフトレバーを介してワイヤーを引っ張ることで、ディレイラーが動いていた。ワイヤーが力を伝えるという点でキャリパーブレーキと同じ仕組みである。シフトレバーを操作する力を、てこの原理によって増大させ、ワイヤーを引っ張り、ディレイラーを操作しているのである。これが従来のワイヤー式変速である。
一方、2005年以降、電動有線変速が一部プロチームで採用され始めた。電動有線変速とは、シフトレバーとディレイラーを電気ケーブルで繋ぎ、シフトレバーから送られてきた電気信号によって、モーター内臓のディレイラーが動く仕組みである。
2005年以降、カンパニョーロがサプライヤーを務める一部チームでの使用が始まり、2011年に製品化された。シマノはプロトタイプの投入で遅れをとっていたが、2009年に製品化し、先手をとることに成功している。
シマノとカンパニョーロが変速の電動化を進める中、スラムは従来のワイヤー式変速にこだわりを見せていた。そんなスラムであったが、2014年以降は電動無線変速を一部のプロチームに供給し、テストを繰り返していた。この変速システムではディレイラーとシフトレバーを繋ぐ電気ケーブルが廃止されている。その後、「RED eTap」として2015年に製品化が発表された。法制上の問題から、国内での発売が危ぶまれた時期もあったが、2016年7月に国内で発売が開始されることが決定している。
電動変速のメリット/デメリット
次に、電動変速のメリット/デメリットに触れる。
メリット
・変速精度が高くなる・構造内に消耗パーツがない
・変速操作がより簡単になる
・シフトレバー以外でも変速可能になる
デメリット
・バッテリー切れの危険性・故障時の対応
・水や泥に弱い
最初に挙げられるメリットは、変速の精度が上昇することである。従来の変速システムで使用していた金属製のワイヤーは、温度変化によって膨張/収縮する。そのため、調整時の温度と異なる環境では変速の精度が落ちるという問題点があった。また、使用に伴う金属疲労も生じるため、ワイヤーを定期的に調整・交換する必要があった。
一方、電動変速においては一旦ディレイラーの位置と変速幅を適切に設定してしまうと、正確な変速を確実に実現することができる。また、両端から引っ張られるワイヤーと異なり、金属疲労が生じる心配もない。そのため、頻繁にメンテナンスを行う必要性がなくなり、フレーム内にケーブルを内装することへの障壁が低くなった。
次に、変速の操作自体が容易になることがメリットとして考えられる。従来はシフトレバーを15度程度内側に押しこむことで変速していた(シマノの場合)。
一方、電動変速ではマウスのクリック程度の操作で変速することができるようになる。長距離を走っている時や、厳しい環境・状態で走っている時には、変速操作が容易であることが大きなメリットになる。
3つ目のメリットとしては、変速スイッチを増設できることが挙げられる。従来はディレイラーを操作できる箇所はワイヤーの端点に限られていた。そのため、ロードバイクの変速操作はシフトレバーを介してのみ行われていた。また、トライアスロンバイクやタイムトライアルバイクを変速するためにはエアロバーの先端に設置されたバーエンドコントローラー(バーコン)を操作する必要があった。
一方、電動変速においては、電気ケーブルに信号を流すことができれば変速が可能になる。よって、ディレイラーに繋がる電気ケーブル上の任意の点に変速スイッチを設置することができる。ロードバイクでは、ハンドルバーの水平な部分や、スプリントの際に握ることの多いドロップ部分に変速スイッチを増設することが多くなった。そのため、登坂時やスプリント時など、シフトレバーを握らないタイミングでも変速することができるようになる。
また、トライアスロンやタイムトライアル競技においては、ベースバーにスイッチを増設することによって、登坂時にも自由に変速を行うことができるようになった。
4つ目としては、オートトリム機能が考えられる。これは、リアディレイラーの変速に合わせて、フロントディレイラーが自動で僅かに動き、チェーンとチェーンガイドの接触を防ぐ機能である。ワイヤー式変速では、チェーンガイドの位置を細かく設定することができなかったため、極端に重い/軽いギアを使用すると、チェーンとチェーンガイドが接触して音鳴りがしてしまうという問題があった。
一方、電動変速のデメリットとしてはバッテリー切れのリスクを負うことがあげられる。バッテリーが切れた際には、基本的に一切の変速ができなくなってしまうため、チェーンが決められたギアに固定されてしまう。また、情報のやり取りが電気信号で行われているため、水や泥が内部に入り込むと誤作動を起こす可能性がある。
さらに、このように不具合が出た際には、確実に停車して調整を行う必要がある。そのため、一部のプロ選手(カンチェラーラやコンタドールなど)はワイヤー式変速を好む(ワイヤー式の自転車は停車せずに変速の微調整を行うことができる)。ちなみに、フル充電1回あたり、シマノ・カンパニョーロの変速システムであれば約2,000km走ることができる。スラムの無線変速システムの場合には、約1,000kmもしくは約60時間走ることができる(いずれもメーカー公表値)。
発表された当初はワイヤー式の変速機の方が軽量であったが、モデルチェンジを経て電動式変速機のセットの方が重量面で有利になった。
各社とも、シフトレバー、フロントディレイラー、リアディレイラー、が電動専用仕様となっている。その他のスプロケット、チェーンなどはワイヤー式コンポーネントと同様の仕様である。
以下、各社の電動変速モデルを確認する。
シマノ:Dura-Ace Di2/Ultegra Di2
「Di2」とは「Digital Integrated Intelligence」の略である。
ケーブルの内装/外装モデルが用意されており、ケーブル内装モデルに関してはバッテリーの内装/外装も選択できる。ケーブル・バッテリーを内装するためにはフレーム側が対応している必要がある。
シマノのコンポーネントセットは5つのグレードが用意されているが、上位2モデル(デュラエース、アルテグラ)に関してはワイヤー式と電動式が存在する。下位3グレードに関してはワイヤー式のみとなっている。「Di2変速システム導入キット」として、コンポーネントのうち電動専用パーツのみがパッケージ化されて取引されている(ワイヤー式と共通のパーツは別途調達する必要がある)。パッケージのみでなくバラ売りも行われている。
シマノは”E-TUBE PROJECT”というサービスを提供している。専用ソフトをパソコンにインストールし、自転車とパソコンを専用のパーツを介して繋ぐことで、変速に関するあらゆる調整をパソコンから行うことが出来る。例えば、スイッチを押してから実際に変速するまでの時間や、オートトリム、多段変速の際の変速数などを設定できる。これは、他社との明確な差異であろう。
7900系デュラエースの電動版として7970系が、9000系デュラエースの電動版として9070系が存在する。同様にアルテグラグレードに関しても、6700系の電動版である6770系が、6800系の電動版である6870系が存在する。9070のSTIレバー(ST-9070)は、変速・ブレーキのみならずGARMIN製サイクルコンピューターを操作することが出来る(別途配線処理が必要)。
スラム:RED eTap
2015年にスラムが発表した無線電動変速システムの名称。
従来の電動変速では、シフトレバーとフロント/リアディレイラー、バッテリーが電気ケーブルで結ばれていた。スラムはこれらシフトレバーと各ディレイラーを無線通信で繋ぎ、電動ケーブルを廃止した。なお、バッテリーはシフトレバーと各ディレイラーのそれぞれに内蔵されている。一回の充電で約1,000kmまたは約60時間の走行が可能である。各ディレイラーに内蔵されるバッテリーは非常に小さいので、予備バッテリーを携帯することも十分に可能である。充電は45分で完了する。また、シフトレバーはボタン電池で作動する。
混線を防ぐため、独自の通信規格「AIREA」を採用した。128bit通信で高度な暗号化が施され、実験室では28セットのコンポーネントで420回の同時変速を行ったが、混線が生じなかったという。また、ディレイラーとシフトレバーと同期は30秒で完了するということで、メカニックにも優しい設計となっている。
電気ケーブルを廃することで、自転車全体をより近未来的に仕上げることができる。
通信法との兼ね合いから、国内での使用が危ぶまれた時期もあったが、この問題は無事解消された。2016年7月1日にインターマックス社での取り扱いが始まる。
2014年からプロトタイプの投入が始まり、UCIワールドツアーチームであるAG2R・ラ・モンディアルが供給を受けていた。
2015年にはトライアスロン界にも投入が始まり、アイアンマン世界選手権ではヤン・フロデノやセバスチャン・キーンレ、ルーク・マッケンジー、ダニエラ・リフ、ミランダ・カーフレーといった強豪選手たちが供給を受けていた。また、オリンピック・ディスタンスの選手でもハビエル・ゴメスを始めとした選手に使用されている。
航空機での輸送について
電動変速システムには、リチウムイオンバッテリーが使われている。航空機でリチウムイオンバッテリーを輸送する際には、航空会社によって規定が設けられているので注意したい(2016年6月現在)。なお、シマノ・カンパニョーロ製バッテリーの規格は以下の通り。
シマノ:SM-BTR1/SM-BTR2
・公称電圧:7.4V・容量:500mAh
・ワット時定格値3.7Wh
カンパニョーロ:POWER UNIT V3/V2
・公称電圧10.8V・容量720mAh
・ワット時定格値77.76Wh
航空会社ごとの規定は以下のとおり。規定が明文化されていたものを列挙する。
日本航空
「ワット時定格が100Wh以下で、短絡(ショート)しないように個別に保護してあるものは、機内持ち込み数制限なし、預かりは不可」全日空
「ワット時定格量が100Wh以下のものは、機内持ち込み数制限なし、預かりは不可」アメリカン航空
「預け入れ荷物の中からバッテリーを取り外し、一つずつ別のビニール袋に封入した上で、機内持ち込み手荷物の中に入れる」エミレーツ航空
「機内持ち込みのみ許可」X線検査後に慌てて荷物を解体するようなことは避けたいものである。
シフトレバーの買い取り価格情報
このように、シフトレバーには電動式とワイヤー式が存在する。これらの買い取り実績を確認してみよう
シマノのシフトレバー買い取り価格情報
デュラエース、アルテグラ、105の買い取り価格が確認された。以下に列挙する。・ST-9000
17,150円(マクサス)・ST-9070
35,000円~45,000円程度(ヤフオク実績)・ST-6800
11,060円(マクサス)・ST-6870
10,000円~1,5000円程度(ヤフオク実績)・ST-5800
8230円(マクサス)いずれも、左右セットでの価格である。
カンパニョーロのシフトレバー買い取り価格情報
カンパニョーロのシフトレバーについては、取引量が少ないようである。以下の二点についてのみ、買取価格が確認できた。
・スーパーレコード11sレバー
21,250円(マクサス)・レコード11sレバー
18,310円(マクサス)セミグレードのレコードの買い取り価格が高額であることに注目したい。特に流通量が少ないとも考えられる。
スラムのシフトレバー買い取り価格情報
スラムについても、上位2グレードの買い取り価格を紹介する。スラムの電動レバーは2016年7月発売予定なので、ワイヤー式のみが中古品として流通している。