スコッチ・シングルモルトを代表するブランドの1つラフロイグ。その個性的な味わいは、好きになるか大嫌いになるかのどちらかだと評されてきた。アイラモルトの王とも称され、多くの愛好家がこの城門をくぐってシングルモルトの世界に入っていった。今回はシングルモルト、ラフロイグについて紹介しながら、各々の銘柄の相場を見ていくことにする。
CONTENTS
このコラムには、合法的な広告・宣伝が含まれている可能性があります。また、当社のサービスである「ヒカカク!」と「magi」の紹介も含まれています。
アイラ島とラフロイグ蒸溜所
アイラ島のモルトの特徴はピートの利いたスモーキーさと潮の香りだ。後者はもちろん海に囲まれた島という立地条件からくる。ある種の植物の死骸が炭化したのがピート(泥炭)で、アイラ島を初めスコットランド各地にこれが層をなして地中に埋まっているところがあり、古くからスコッチ製造に用いられてきた。
時代が下るにつれピートの使用を軽くしたりまったく使わない蒸溜所が出てきたが、アイラ島では伝統的な作法が維持されている。アイラモルトの個性は伝統の保持という側面もあるわけだ。アイラモルトのなかでもラフロイグは独特の強い香りで知られる。その特徴を製造工程と結びつけて見ていこう。
モルティングとピート
ウイスキー作りの第一歩は大麦種子を発酵に適した状態まで発芽させることモルティングだ。現在ではモルティングを専門に請け負うモルトスターという業者にまかせるのが一般的だが、ラフロイグ蒸溜所では全体の15%を自前でモルティングしている。
そのやり方もフロアモルティングと呼ばれる古典的なもので、いったん水に浸した大麦を低温多湿の部屋の床に並べ、数時間おきに職人がすき返して大麦種子を均等に空気に触れさせる。そしてほどよく発芽したところで発芽をストップさせるための乾燥の工程に入る。
キルンと呼ばれる小さな塔のような建物に麦芽を移し、ピートを焚いてその熱で乾燥させる。その際にピートから出るスモーキーな香りが麦芽に移る。ラフロイグ蒸溜所では乾燥工程の後半で潮風を吹き込ませ、ピート香とともに潮の香りも麦芽に与えている。
発酵と仕込み水
麦芽の発酵のために使われる仕込み水もほのかなピート香を持っている。ラフロイグ蒸溜所の仕込み水はサーネイグ・バーン川から取られるが、この川にはピート層を通り抜けた雨水が集まってくるため、川水には自ずとピート成分が溶け込んでいるのだ。
アイラ島最小の蒸留器
発酵工程を経て生まれたもろみは単式蒸留器(ポットスチル)にかけられる。ポットスチルの胴体やパイプの大きさ・形・角度は蒸溜液の性質を決める要素だ。ラフロイグ蒸溜所で使われるポットスチルはアイラ島で最も小さく、2つの形が使い分けられている。
液体のなかで沸点の低い(揮発しやすい)成分だけを熱によって気化し、冷やして濃縮させ液体に戻すのが蒸溜という工程だ。発酵もろみのなかにはたくさんの成分が含まれるので蒸溜は複雑な工程になる。ポットスチルで熱せられた液体からのぼる蒸気はパイプを伝って冷却装置に移る。
これを続けていると余計な成分まで出てきて混じってしまうので、適当なところで蒸気をカットしなければならない。この頃合いも原酒の性格を変える。ラフロイグ蒸溜所では通常のタイミングよりも遅くこのカットをおこなう。これが独特の強烈な香りを生む一因になっていると言われる。
バーボン樽での熟成
新樽では木の香りが出すぎるため、スコッチ作りでは他の酒の熟成に1度、または数度使われた樽を使う。代表的なのはシェリー樽とバーボン樽だ。樽が何の熟成に何度使用されたものなのかということも将来の味わいを左右する鍵となる。
ラフロイグ蒸溜所ではバーボン熟成に1度使用された樽(ファーストフィルのバーボン樽)を使う。この樽で貯蔵することでバニラのような甘さとクリーミーな滑らかさが原酒に付加される。ピーティーでスモーキーな強靱さを甘やかな風味がやさしく包み込むことで、ラフロイグならではの風味が生まれてくる。
ラフロイグ・各銘柄の相場
ラフロイグのすべての銘柄を取り上げるわけにはいかないので、熟成年数30年以上の高額銘柄を中心にして見ていくことにする。熟成年数の多い順に買取業者・ヤフオク・メルカリの相場を眺めよう。以下は2019年3月30日現在で得られた情報である。ヤフオクについては2018年3月~2019年3月の約1年の間に落札された事例を取り上げる。
ラフロイグ40年
幅広い銘柄の買取上限価格を公表している大黒屋では、ラフロイグ40年の価格は150,000円となっている。これは状態がよく付属品もそろっている場合の価格であることに注意してほしい。
ヤフオクでは上記期間に3件の落札例がある。落札価格は580,000円(750ml・美品)、395,000円(700ml・箱付・シュリンクに破れ・ラベル薄汚れ)、209,000円(700ml・箱付き・1割ほど目減り)となっている。
単純な比較はできないが、状態の悪さが落札価格に響いているのは明らかだ。とくに目減りは大きなマイナスポイントである。メルカリでは空ボトル(ラベル傷み大)が15,000円で購入されている。
ラフロイグ 32年 200周年限定品
ラフロイグ蒸溜所の創業200年を記念して発売されたボトル。ヤフオクでは7件の落札があり、価格は127,000円~300,000円と大きな幅がある。商品の状態に大差はない。理由の1つは開始価格にあるかもしれない。
13万円前後で落札された例では落札価格は開始価格と変わらず、競り合いが起きていない。10,000円という破格値で開始された例では競り合いによって180,000円まで上がっている。30万円程度で落札された例でも開始価格のまま落札となっているが、こちらは初めから相場上限の値段がつけられている。まとめるとこうなる。
中途半端な高額で開始すると競り合いが起こらず落札額は低い。破格値で開始すると高額になりやすい。破格値での開始は避けたいというなら、中途半端な高額で始めるよりは初めから相場上限に設定した方がいい。いつもこうなると断言できるわけではないが、希少な人気商品ではかなり一般的に見られる傾向である。
ラフロイグ 1974 ヴィンテージ 31年
大黒屋では買取上限価格が500,000円で、ラフロイグのなかでは最高額だ。ヤフオクでは2件の落札例がある。621,000円(箱なし・美品)と297,123円(半年前に開封・1割減)。状態の差がはっきり価格に表れている。
これほどの品であるから、空ボトルも93,000円という高額で落札されている。1974ヴィンテージと似た銘柄に1976年ヴィンテージと1977ヴィンテージがあり、前者は130,000円~188,099円、後者は271,000円で落札されている。
ラフロイグ シグナトリーヴィンテージ 31年&30年
31年はヤフオクで1件の落札。落札額は620,000円だ。30年は3件ある。いずれも箱・証明書がそろった美品で、落札価格は355,000円(同額開始)、500,000円(同額開始)、553,000円(1円開始)とかなり幅がある。状態に大差はないから、32年などの場合と同じく開始価格がキーポイントになっているようだ。
ラフロイグ 30年
大黒屋の買取上限価格は90,000円である。ヤフオクでは30件ほどの落札例があり、落札価格は110,999円~272,111円とかなりの幅がある。安値で落札されている例に目減りなどの大きな問題があるわけではない。
高額落札の数件を見ると、どれも1円スタートとなっている。11万円~13万円くらいで落札されているものは、初めからその値段か数万円開始となっている。上に見たのと同じ傾向がここにも見える。
メルカリでは相場よりかなり安い80,000円で購入された例があるが、メルカリにはこうしたことがままある。また、木箱と空きボトルのセットが10,000円~20,000円で購入されている。
主力商品ラフロイグ 10年に相場と
特徴最後に熟成年数が短めのボトルを1つ取り上げる。ラフロイグ10年はラフロイグ蒸溜所の主力商品で、現在も希望小売価格5,600円(税抜き)で販売されている。だが以下で見るのは現行品とはラベリングも味わいも異なり、旧ボトルと呼ばれるものだ。
旧ボトルの特徴
現行品よりも甘みがあり香りも柔らかく、角の取れた旨味を感じさせる酒だと言われる。ラフロイグの名声を長い間広めてきたのは現行品ではなく、旧ボトルの風味である。昔からのファンも新しいファンも事情通は旧ボトルを求める。
その結果、古い型のラフロイグ10年のなかには数十年物の銘柄にも劣らない相場にまで上がっているものがある。ただし、旧ボトルと称して出品されているもののなかにはそれほど古くないものも混じっている。
ラフロイグが1994年に王室御用達のお墨付きをもらってからはラベルにプリンス・オブ・ウェールズの紋章が印刷されるようになったが、これがあるボトルはさほど古くない。他にもいくつかポイントがあるから、ラフロイグ10年を売りに出す際には自分の所有するボトルがいつ頃の型なのか詳しく調べておいたほうがいい。
旧ボトルの落札相場
ヤフオクでは数十の落札例があるが、型の古さによって相場はまちまちだ。とくに古い型のボトルでは351,000円や295,000円という高額の落札が見られる。それ以外にも型の古さや状態に応じて数万円~十数万円で落札されている。プリンス・オブ・ウェールズの紋章があるような新しめのボトルでも、ものによっては数万円~6万円前後で落札されている。
まとめ
今回はラフロイグの高額銘柄の相場を見てきた。いくつかの箇所で触れたが、ヤフオクに出品する場合には開始価格が高額落札のための1つの鍵になる。ラフロイグの希少品を低額で出品するとほぼ確実に競り合いが起こる。1円などの破格値でスタートしたほうが注目を集めるので高額落札につながりやすい。
中途半端な高額に設定すると入札者に二の足を踏ませてしまい、競り合いが起きないまま終わってしまう。それならいっそのこと初めから相場上限に設定したほうがいい。とは言えオークション出品は賭けの要素も大きいから、この傾向通りに行くとは限らないことを十分にご承知おき願いたい。
買取業者に売る場合には必ず複数の業者を比較することだ。業者ごとに在庫や買取戦略は違う。特定の銘柄を予約している顧客がいれば、業者は買い取ったものをすぐにさばけると見込んで相場より高い査定額を出すかもしれない。買取価格を公表している業者は少ないから、一括査定などを利用して効率よく情報を収集しておこう。