SMWS 116.10 余市18年 生命の水は市販の銘柄ではない。ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)の会員のみが買うことのできる特殊な酒だ。と言うと敷居が高そうに聞こえるかもしれないが、SMWSは実際にはフレンドリーな組織である。
今回はこの組織について紹介しながら、SMWS 116.10 余市18年の相場情報を見ていくことにする。販売方法の特殊さやウイスキーブームの影響もあってかなりのプレミアムがついているので注目していただきたい。
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ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティとは
ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)は樽の中の原酒を蒸留所から買い取り、そのまま瓶詰めして会員に販売している国際組織だ。樽は鑑定委員によって厳しく吟味され選ばれる。ウイスキー好きが高じると1つ1つの樽の原酒を味わってみたいと思うものだ。SMWSはまさにそんな人間の集まりである。
SMWSの歴史
1978年、原酒の魅力に取りつかれた1人のスコッチ好きが友人から出資を募って樽を1つ買い取ったのがすべての始まりだ。輪は徐々に広がり、1983年にはSMWSが設立され、エディンバラに事務所が置かれる。SMWSとして買い付けた最初の樽はグレンファークラス蒸留所のものだった。
今では世界各地に支部を持ち3万人の会員を抱える組織となり、SMWSを知る者のあいだではザ・ソサエティと呼べば通じるまでになった。
SMWSへの入会
英国発祥というと排他的なクラブを思い浮かべるかもしれないが、実際はスコッチという共通の趣味でつながる友好的な組織だ。飲酒の許される年齢なら会費さえ払えば基本的に誰でも入会できる。日本支部の入会金は10,000円~20,000円だ(高いほど立派な粗品がついてくる)。
会員はSMWSの販売するボトルを購入できるほか、セミナー、試飲会、パーティーなどのイベントに参加できる。機関誌も発行され、新商品が毎月発売されている。SMWSの認定を受けたパートナー・バーというものもあり(2019年3月現在で日本にも10件)、SMWSのボトルを非会員も味わうことができる。
SMWSのラベル
ラベルにはブランド名も蒸留所名もない。SMWS 116.10 余市18年の正式名称はただの116.10だ。左の数字は蒸留所を表し(ここでは余市蒸留所)、右の数字はその蒸留所から買い取った何番目の樽なのかを指す。ブランドよりも1つ1つの樽にこだわるSMWSの思想が表れていると言えるだろう。
加えて、原酒の風味を表現した一風変わったタイトルがつけられている。SMWS 116.10の場合、タイトルは相撲取りの寝酒。いかにも外国人が好みそうなエキゾチックでキャッチーなネーミングで日本人にはかえって理解しづらいかもしれない。
1本1本に詳細なテイスティングノートが用意されており、購入の指標になる。販売用のパンフレットや日本支部ウェブサイトには日本語での説明もある。
SMWSのモルトウイスキー
いずれの品も樽の中のモルトウイスキー原酒がそのままボトリングされている。つまりシングルカスクかつカスクストレングスで、低温ろかなどの加工が施されていない。樽からの直行便なのだ。
シングルカスクとカスクストレングス
単一の樽に由来するモルトウイスキーがシングルカスクだ(カスク=樽)。シングルモルト(1つの蒸留所のモルト原酒をブレンドしたもの)やヴァッテッドモルト(複数の蒸留所のモルト原酒をブレンドしたもの)に比較して、原酒の個性が出やすい酒である。市販のシングルカスクは単一の樽の原酒のみを使っているが、原酒そのままをボトリングしているわけではない。
アルコール度数の調整や品質加工が施されているのだ。通常スコッチは原酒の60%前後のアルコール濃度を40%台程度におさえるために加水した上で再び寝かされ(後熟)、瓶詰めとなる。この加水をしないのがカスクストレングス、つまり樽のままの強さのウイスキーだ。
低温ろかは味のためではない
市販品は大抵、低温ろかという処理をしてから瓶づめされる。原酒が40%台に薄められると溶けこんでいた成分の一部が固まって析出(せきしゅつ)し酒が濁ってしまう。カスクストレングスでも、気温が低いとこの現象が起こることがある。
それを避けるためにわざと低温にして固形分をろかするのが低温ろかだ。これは要するに見た目のためであり、風味にとってはマイナスだ。市販の高級ウイスキーのなかにも低温ろかをしない(ノン・チルフィルタード)の製品が存在する。日本でも余市、竹鶴、山崎、白州、山桜などのブランドから出ている。特にイチローズ・モルトはこれにこだわっている。
SMWS 116.10 余市18年の特徴
SMWSはその名の通りスコッチのための組織だが、スコッチの製法を受け継いでいるならばスコットランド以外の樽も受け入れている。日本の蒸留所で最初に指名される栄誉を得たのは日本ウイスキーの父、竹鶴政孝の意志をつぐ余市蒸留所だ。後に山崎、白州、宮城峡と続く。SMWS 116.10 余市18年は余市蒸留所からSMWSが仕入れた10番目の原酒である。
余市蒸留所
日本最初の本格的なウイスキー蒸留所は寿屋(のちのサントリー)の山崎蒸留所だが、初代所長として招聘(しょうへい)された竹鶴政孝は大阪と京都の境に位置する山崎の地に蒸留所を置くことには反対だった。スコットランドと似た条件をそなえた土地は北海道以外にないと考えていたからだ。逆に寿屋社長鳥井信治郎は輸送コストなどを重視した。
10年後に竹鶴は寿屋を退社し、理想のウイスキー作りを目指して北海道の余市町に蒸留所を開く。それが余市蒸留所だ。余市町は冷涼な気候、良質の水、湿度といった条件に恵まれ、大麦、ピート(泥炭)、樽材が道内から調達できる。スコッチの再現を目指す竹鶴にはうってつけの土地だった。
余市の特徴
余市は余市蒸留所のシングルモルト(またはシングルカスク)のブランドだ。他のジャパニーズウイスキーもスコッチの製法にならっていはいるが、ピートの使用は控えめで、やわらかで華やかな風味のものが多い。一方余市は力強いスモーキーな風味が持ち味で、SMWSの鑑定人が日本の蒸留所第一号に選んだのもうなずける。
SMWS 116.10 余市18年
公式のテイスティングノートによると、風味はとても日本的なコンビネーションで、かつ飲みごたえ、インパクトがある。余市蒸留所の面目躍如(めんもくやくじょ)というところだろう。
SMWS 116.10 余市18年の相場
SMWSのボトルは樽を使い切れば販売終了となり、中古品にはプレミアムが付く。ウェブ上の情報が限られているため、SMWS 116.10 余市18年の販売時の価格は筆者には不明だ。SMWSでは販売価格に極端なばらつきはなく、12~20年物でおおよそ12,000円~30,000円であるから、116.10もその程度だと考えられる。
したがって以下に見るようにプレミアム価格は10倍ほどに達している。では、2019年3月14日現在で得られた相場について、限られた情報ながら紹介する。
買取業者の相場
販売方法が特殊でボトル数も限られるため業者による買取情報は少ない。ウェブ上に買取価格を表記しているのは大黒屋1件のようだ。上限価格は190,000円となっている。
他のSMWS余市も16,7000円~200,000円と大きな差はない。ほかのSMWS銘柄に比べ、平均的にやや高い値がつけられている。たとえば山崎は60,000円~130,000円となっている。買取実績額を公表していない業者の中にはこれ以上の値をつけるところもあるかもしれない。
ヤフオクの相場
ヤフオクでも取引例は少ない。2018年2月~2019年3月の間では落札は1件のみ。2018年12月に15,000円スタート、252,000円で落札されている。ラベル・箱に多少の傷が見られるが全体としては良好な品である。
他のSMWSジャパニーズウイスキーと比べて余市の落札相場がやや高めなのは業者の買取価格と同様だ。出品・落札件数が少ないので明言はできないが、SMWS余市の各ボトルの間での価格差にはっきりした偏りは見られない。SMWSのボトルはそれぞれが1つの個性だから人気の集中はさほど起こっていないのかもしれない。
メルカリの相場
こちらも調べてはみたが、SMWSウイスキーの出品はごく少数でSMWS 116.10 余市18年は見当たらなかった。メルカリは相場から外れた値がつけられることがよくあるようだ。高値で出品されて売れ残っていたり、相場よりかなり低い値で買われたりしている。また、購入希望者の値下げ交渉も頻繁に見られる。
業者とヤフオク、売り方の違い
一般的に言ってオークション落札額は業者買取価格に勝るが、オークションの手間やリスクと比べてこの価格差をどう取るかは個人次第だろう。いずれの場合もなるべく状態がよく、付属品がそろっていることが大切だ。掃除できれいになるところはきれいにしておくようにしよう。売り方のポイントをざっと見ておこう。
業者に売る場合
複数の業者に査定を依頼して鑑定額を比較することが大切だ。希少品ほど査定額にばらつきが出やすい。多くの業者が無料査定を受け付けている。一括査定を利用すれば一度の手間で複数の業者に問い合わせができる。
SMWSのボトルは市販品ではないから、ウイスキーに詳しい鑑定人がいる業者でなければ価値に見合った査定は得られないだろう。電話やメールの相手がソサエティのことを知らないようだったら、その業者は避けるべきかもしれない。売り方には持ち込み・出張買取・宅配買取がある。それぞれの条件や手数料(送料、返送料、振込手数料など)もチェックしておきたい。
ヤフオクに出す場合
まず、リスクは承知しておこう。出品から発送までは結構手間暇がかかるし、自己中心的な落札者もいる。また希望通りの値段で希望通りの時期に売れるとは限らない。高額商品であるから自分のアカウントの信用度(取引実績、評価)も問われる。
出品にあたっては十分な説明を心がけ、的確で鮮明な商品写真を用意することだ。傷を隠すようなことはクレームを引き寄せやすいからおすすめしない。
まとめ
SMWSが日本の蒸留所のなかで最初に指名したことからもわかるように余市の樽は本場スコットランドのものに近い風味を持つ。SMWSの余市は他のジャパニーズウイスキーのSMWSボトルに比べてやや高めの相場となっている。SMWSの商品を求めるようなスコッチファンの間ではスモーキーさが評価されるということだろうか。
SMWSのボトルはプレミアムがつきやすい。SMWS 116.10 余市18年は発売価格の10倍程度にまで値を上げている。これには近年のウイスキーブームが影響している。
売りどきを見極めるのは難しいが、ブームがいつ終息するかわからない以上、今のうちに売却を考えるのも合理的と言える。売り方について今回はあまり取り上げなかったが、ぜひ他のコラムも参考にして高値を目指していただきたい。