スコッチ愛好家の国際組織SMWSは、蒸留所から原酒を買い取ってそのままボトリングして会員に販売している。ジャパニーズウイスキーでは2002年にニッカの余市蒸留所が初めてラインナップにくわわり、ついでサントリーの山崎蒸留所、白州蒸留所と続き、2005年にはふたたびニッカの宮城峡蒸留所が加わることになった。
いずれの蒸留所も本場の鑑定委員の眼鏡にかなったわけで、ジャパニーズウイスキーの国際的評価を如実に示すできごとと言える。SMWSによって宮城峡蒸留所から5番目に買い取られた樽がSMWS 124.5 宮城峡23年だ。今回は余市と宮城峡の違いやSMWSの活動を紹介しながらSMWS124.5の相場について解説する。
CONTENTS
このコラムには、合法的な広告・宣伝が含まれている可能性があります。また、当社のサービスである「ヒカカク!」と「magi」の紹介も含まれています。
宮城峡蒸留所とは
ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝はジャパニーズウイスキーの父と呼ばれ、NHKドラマ『マッサン』の主人公のモデルとしても有名だ。彼が開設した第二の蒸溜所が宮城峡蒸溜所だ。
竹鶴政孝とジャパニーズウイスキー
竹鶴は日本人として初めてスコットランドの蒸留所に入って修行し、スコッチ作りの秘密を詳細なノート(竹鶴ノートして知られる)に書きつけた。帰国後、折しも日本初の本格的ウイスキー製造所を作ろうとしていた寿屋(のちのサントリー)創業者鳥井信治郎に請われ、山崎蒸留所の初代所長に就任する。
しかし京都大阪の府境にある山崎の地は竹鶴にとって理想の地ではなかった。日本で本物のウイスキーを作るなら北海道しかないと考えていた彼は、1934年に北海道余市に蒸留所を開設する。そして1969年には第二の蒸留所を宮城峡に開く。
宮城峡蒸留所を作ったわけ
スコットランドでは他社の蒸留所からブレンドのための原酒を買うことが普通におこなわれている。異なる風土で生まれ育った原酒が出会うことで、豊かな風味が醸し出されるのだ。留学時からそれを知っていた竹鶴は、余市とは違った風土にもう1つ蒸溜所を設けたいと常々考えていた。
そしてついに余市よりも南の地という条件で候補地選びを始めた。宮城峡を新蒸留所に決定した際のエピソードが伝わっている。竹鶴はブラックニッカを懐にして候補地に向かい、当地を流れる清流の水で割って味見をし、その場で開設を決定したという。
熟成された原酒は瓶詰めの前に後熟(マリッジ)と呼ばれる工程を経る。他の原酒と混ぜ合わせた後、加水してアルコール濃度を調節し、数カ月から1年ほどふたたび樽で寝かせるのだ。麦芽の仕込みに使われる水も大事だが、後熟に使われる水はよりダイレクトに味に響く。それゆえ、蒸溜所の場所を決めるにあたり竹鶴は水割りを試金石にしたのだ。
余市とは対照的な宮城峡
余市蒸留所では麦芽を乾燥させる際にピートを利かせ、蒸留は石炭直火にこだわる。これによってスモーキーで力強いモルト原酒が生み出される。一方、宮城峡蒸留所では蒸気間接蒸溜を用い、軽快で華やかなモルトが目指されている。
宮城峡はバランスの取れた味わいからスコットランド・ローランド地方のスコッチにたとえられる。余市と宮城峡のヴァッティングで生まれた竹鶴ピュアモルトのシリーズは、ISC最高賞トロフィー・WWA最高賞、ワールド・ベスト・ブレンデッドモルト・ウイスキーをはじめ数々の賞に輝いている。
カフェ式蒸溜機を用いたグレーンウイスキー
宮城峡蒸留所ではカフェ式と呼ばれる旧式の連続式蒸溜機を用いてグレーンウイスキー作りがおこなわれている。新式の連続式蒸溜機はどちらかというと効率に重点を置くようになっており、品質を重視する竹鶴はカフェ式にこだわった。
カフェ式で生み出されたグレーンウイスキーは原料本来の風味が豊かに保たれている。グレーンらしくすっきりした味わいながらも深みを持ち、ニッカのブレンデッド・ウイスキーにまろやかな余韻を与えている。
SMWS 124.5 宮城峡23年の特徴
SMWSとはどんな組織なのかを簡単に紹介し、SMWS 124.5 宮城峡23年の特徴について見ていこう。
SMWSとは
原酒をそのまま味わいたいという思い1つで始まった知人間のサークルが、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ(SMWS)の起源だ。SMWSは1983にエディンバラに事務所を開設したのを皮切りに徐々に規模を拡大し、今では世界各地に支部を持ち会員数3万の組織となった。
日本にも支部とウェブサイトがあり、入会金10,000円で誰でも入会できる(もちろん20歳以上に限られるが)。SMWSのボトルはどれも1つの樽の原酒そのままが詰められている。加水も低温ろかもされていない。1つ1つの樽の個性を味わうのが主旨だ。樽の選定には経験豊かな鑑定委員があたっている。
SMWS 124.5 宮城峡23年の名称と価格
124.5は、SMWSがえらんだ124番目の蒸留所の5番目の樽を意味する。これがこのボトルの正式名称だ。樽にこだわるSMWSの姿勢がネーミングに表れている。
2015年3月に発売され、ボトリング本数は142本、アルコール度数は66.7%となっている。発売時の価格は45,000円である。熟成年数が長いこともあってSMWSのボトルのなかでは高価格だ。
SMWS124.5 宮城峡23年の味わい
公式テイスティングノートでは、さまざまなフルーツやバニラといった甘やかな風味とスパイシーなオークの香りが評価されている。加水すると強烈だった要素が穏やかになり、変化した風味が舌にじんわりと広がる。樽の原酒そのままを味わうにはストレートに限るという意見もあるが、加水による変化を楽しむのもウイスキー飲みの楽しみの1つだ。
蒸溜所のブレンダーもウイスキーと水を1:1で割って香りの広がり方を評価している(この割り方はトゥワイス・アップと呼ばれる)。ロックで、氷がじわじわと溶けるにしたがって味わいが変化していくのを楽しむのもいい。常温の水やお湯で割るのもありだ。
SMWS 124.5 宮城峡23年の相場
SMWSのモルトは販売終了後はプレミアムがつくのが一般的だ。ジャパニーズウイスキーでも余市・山崎・白州・軽井沢など、発売価格の10倍前後まで値を上げている例がある。SMWS 124.5 宮城峡23年も以下に見るように数倍程度に上昇している。
業者の買取価格
ウェブ上の価格情報はごく限られている。2019年3月21日現在、大黒屋ではSMWS 124.5 宮城峡23年の買取上限価格が115,000円となっている。発売価格の2.5倍だ。1つ前の樽であるSMWS 124.4 宮城峡 17年は、発売価格が28,000円で買取上限価格が90,000円と約3倍だ。他のSMWS宮城峡も2~3倍といったところである。
ヤフオクの落札価格
ヤフオクでは2018年2月から2019年3月までに3件の落札例がある。1つは開始価格が20,000円で、166,000円で落札されている。発売価格の約3.7倍だ。もう2件はいずれも124.4と125.5のセットで150,000円開始、301,000円で落札となっている。
メルカリの出品例
SMWSボトルの出品数は少なく、売れた例となるとごく少数だ。SMWS 124.5 宮城峡23年の売れた例は見当たらないが、数カ月以上前から300,000円で1点出品されている。業者やヤフオクの相場からは外れた高値だ。
SMWS 124.5 宮城峡23年をどう売るか
ご覧のように買取業者とヤフオクでは売却価格にかなりの差がある。しかし、単純にこの差の分だけヤフオクが得だとは言えない。ヤフオクでは売り終えるまでにはそれなりの時間と手間がかかり、リスクも比較的大きいからだ。そこで売る目的を考えてみよう。
手間や面倒を最小にして今すぐ換金したいなら買取業者だろう。手間と時間をかけ、リスクも承知で高値を狙うならヤフオクやメルカリに出せばいい。少しでも高く売るためのポイントを以下に解説しよう。
商品の状態
未開封でなければならないのはもちろんだが、ボトルやラベルの状態もポイントになる。ほこりなど落とせる汚れは落としておこう。ただしやり過ぎてラベルを傷つけたりしたら本末転倒だ。
付属品の有無も大きい。SMWSの箱は(発売時期による違いがあるだけで)どのボトルも同じだから、箱そのものにはさほどの価値はないかもしれないが、それでもそろっているということが高値で売るためには大事だ。
業者や落札者に送るときには丁寧に商品を包み、梱包箱のなかで商品が動かないようしっかり緩衝材を詰めることだ。ここで手を抜いて傷物を送りつけることになったら後の祭りだ。
買取業者で売る場合のポイント
何はさておき、業者の比較はしなければならない。SMWSボトルのような希少品は価格にバラつきが出やすいからなおさらだ。多くの業者が無料査定を受け付けている。1件1件査定を依頼するのは面倒だが、一括査定というシステムを利用すれば1回で数件の業者に依頼を出すことができ、手間が省ける。
こまかい話に思えるかもしれないが、いろいろな手数料についても調べておきたい。出張買取の場合の出張料、宅配買取の場合の送料や返送料、振込手数料などだ。出張料や送料が無料という業者も多いが、その分は査定額に反映すると思ったほうがいい。
業者としては1回の出張や宅配で多くの品物を引き受けたほうが効率がいい(ただし売値の付くものに限る)。したがってまとまった数を売ったほうが平均的に高額になりやすい。買取額増額キャンペーンなどもチェックしておこう。
ヤフオクに出品する場合のポイント
開始価格や即決価格(即落札となる価格)を決め、商品実物の写真を用意し、商品説明の文章を練り、サイトにアップするのが最初の手間だ。写真は鮮明で的確なものを用意しよう。ぼやけていては商品は実際よりもマイナスに見えてしまうし、目立つ傷を隠すとクレームにつながる。
1また、文章は詳しすぎてもマイナスだ。入札者の立場に立ってポイントを絞ろう。回の出品で必ず売れるようにするには開始価格を低くすればいいが、安い値段で落札されてしまうリスクがある。低い値段で出品すると注目が集まりやすいから、最終的な落札額が高くなるという場合もある。
少々の料金で最低落札価格を設定できるオプションがあるが、この価格は入札者には見えないので、敬遠される原因にもなる。オークションは結局賭けだ。どうしても譲れない額があるならそこからスタートするのが素直な手だろう。
メルカリに出品する場合のポイント
メルカリはヤフオクより手間が多少省けるが、ある程度以上の価格の品にはよく値下げ相談が持ちかけられる。出品前に腹を決めておかないと引きずられてズルズルと価格を下げる羽目に陥りやすい。値下げしたくないなら変に譲歩せずきっぱり断るべきだ。
値下げするならどこまで受け入れるかを決めておく。値下げ価格をこちらから答えてしまうとそのコメントを見たすべてのユーザーに向けて値下げしたも同然になる。相手に金額を指定させ、その上でイエスかノーかを答えた方がいい。結局購入されなかったら価格交渉のコメントは削除しておいたほうがいいだろう。
あえて相場を無視して出品するという手も
オークションやフリマでは自分で価格を決めることになるが、この金額以下では売るつもりはない、売れなければ売れないでいいという考えなら、相場は気にせず強気の高値で出品し続けるのもありだろう。ただし、いったん出品してしまうと心が軟化して、売れやすいように値下げしたくなることも多いので注意してほしい。
まとめ
SMWS 124.5 宮城峡23年の相場は発売価格の数倍程度まで上昇している。これには近年のウイスキーブームも多分に影響しているだろう。ブームはいつ終わるかわからないから、今のうちに売ってしまうのは悪い手ではない。いくつかの売り方を紹介したが、自分の目的に合った方法を選ぶことが大切だ。
相性の問題も大きい。自分の性格に合わない方法を選んでしまうとストレスや後悔の種になりやすい。SMWS 124.5 宮城峡23年は発売からまだ数年しかたっていないので、しばらく様子をみるのもありだ。ただし保管には十分に注意を払っていただきたい。
高温、直射日光、強い臭いは避ける。冷蔵庫では温度が低すぎて風味を壊す。湿度が高すぎるとラベルなどにカビが生える。ウイスキーは立てて保管するのが基本だ。寝かせるとキャップやコルクの臭いが移ると言われている。箱などの付属品は必ず残しておこう。