※当記事は古物の専門家が寄稿しています
古物商の許可を得る際に個人と法人と選択することができる。しかし、法人の場合に初期費用がかかったり、個人と比べて提出書類が多かったりすることで面倒に感じる人もいるだろう。
中にはわざわざ法人にする必要はないのではないか、社長に該当する人が個人で登録して業務を回しても良いのではないかと考えて選択を迷っている人もいるかもしれない。しかし、自己判断で決めるよりか、個人と法人で古物商にどのような違いが発生するのか知っていたほうがキチンとした判断をおこなうことができるだろう。
そこで、古物商の許可申請を得る際に法人として経営できる人が社長や管理者個人で登録して良いものか。また、個人や法人にすることでメリットがあるのか、それぞれ確認していく。
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管理者は社長という決まりはない
古物商の許可を申請する場合、管理者を決めて届け出をしなければならない。管理者とは、古物取引の責任者のことを指す。なお、申請する窓口は事業所(営業所)を管轄する警察署(公安委員会)になる。
申請は当事者でも可能だが、行政書士などが代行することも可能だ。また、古物商の許可には法人でも個人事業主でも申請ができ、管理者は社長でなければならないという決まりもない。そのため、会社内の社員や古物に詳しい関係者などが管理者になっても構わない。
だからといって誰もが管理者になれるというわけでもない。まず個人事業主や法人が許可を取得する場合、一般的にはどんな人が管理者になっているのかを簡単に解説していく。
申請者以外が管理者になっても良い
個人事業主が古物商資格を取得する場合、許可を取得する人と管理者は同じであっても構わない。そのため、個人事業主が許可を取る場合、事業主本人が管理者となるケースが多いようだ。しかし、何らかの事情で管理者になれない場合は別の管理者を届け出ることも可能だ。
営業所から近い人
古物商の管理者になる条件は全くないわけではなく、トラブルなどがあった場合、速やかに対応するべく営業所に常駐できる人がなる必要がある。事業主の住所が営業所から離れていると常駐することは難しく、別の管理者を指定しなければならない。
例えば、古物ビジネスで取引した商品の中に盗品が混ざっていた場合、警察が捜査協力を求めてくることもある。そのとき、警察との窓口担当として対応するのは古物取引の責任者である管理者だ。
古物商知識のある人
警察に捜査協力する場合、店舗内の書類提出を求められたり、取引記録などについて質問されることもある。このようなケースでは古物ビジネスについて詳しい知識がなければ、警察の捜査に対応することができないだろう。
そのため、管理者は古物について良く知っている人でなければならないと決められている。以上のことからも、古物を熟知している責任ある立場の人物がふさわしいといえるだろう。
欠格要因にあてはまらない人
古物商の管理者には社長がなる必要はなく、別の役員や社内の担当者などでも問題ない。しかし、古物商の管理者は誰でもなれるというわけではなく、一定の条件をクリアした人でなければなることができない。
例えば、古物商の管理者は欠格要件に該当しない人でなければならない決まりがある。欠格要件とは古物商の管理者になることができなくなる要件のことだ。要件には以下のようなものがある。
- ・成年被後見人若しくは被保佐人(精神障害や認知症で、法律上の定めにより、有効な契約をおこなえないとされている者)又は破産者で復権を得ない者
- ・禁錮以上の刑に処せられたり、古物営業法違反、背任、遺失物・占有離脱物横領、盗品等有償譲受けなどの罪で罰金刑に処せられたり、刑の執行から5年が経っていない者
- ・暴力団員の関係者や集団で暴力的な不法行為をおこなう恐れのある者、常習でおこなう可能性のある者
- ・住居の定まらない者
- ・古物商の許可を取り消されて5年以上経たない人
- ・未成年者
これらの欠格要件に1つでも該当すると管理者になることはできない。特に注意が必要なのは未成年者の場合だろう。未成年者は原則として古物商許可を取得することはできない。
ただし、未成年者には例外があり、既に結婚している場合や親から同意をもらった場合には許可を取ることが可能だ。なお、古物商許可については下記の者も欠格要件に該当しないことが必要となる。
- ・個人の場合に申請者本人と古物商の管理者
- ・法人の場合に代表取締役、取締役、監査役などの法人役員と古物商の管理者
法人として登録する際の注意点
法人で古物商の許可を取得する場合、法人と管理者を同じ名義で申請することはできない。だから、法人が許可を取得するときは別に管理者を決めておかなければならない。法人が許可を取得する場合、どのような人が管理者になるかは、法人の規模などによってさまざまのようである。
例えば大企業クラスの場合は、古物ビジネスの担当者や拠点(営業所等)の責任者などが管理者になることが多く、中小企業などでは社長や役員が管理者となることが一般的のようだ。
法人と個人事業主どちらが良いか
古物商として複数店舗での規模拡大を目指すのであれば法人でのスタートが良いだろう。なぜなら、個人事業主だと信用力が劣るのと資金調達が難しくなる可能性があるからだ。ただ、個人事業主でスタートしておいて、法人成りを検討するのもひとつの方法かもしれない。
その場合は新たに法人として古物商許可を取得する必要がある。逆に店舗を増やさず、小規模の運営を想定しているのであれば、個人事業主を選択したほうがいいかもしれない。しかし、いくら収益を上げるかによっても変わるため、法人と個人事業主のそれぞれのメリットを確認していきたい。
個人で開業した際のメリット
まずは個人事業主として登録した場合のメリットを確認していきたい。具体的には、以下のようなものが考えられるだろう。
まず、法人設立時には登記費用などが発生する。その後は赤字であっても一定の地方税を払わなければならない。これは資本金などをもとにした均等割部分がたとえ赤字であっても発生する。小規模法人の場合でも、支払う金額は7万円ほどが目安となるらしい。その他にも法人設立時には会計や事務作業が増えて手間とコストがかかる。
さらに社会保険料が強制加入のため、従業員だけでなく経営者も加入しなければならず、結果として人件費が上がるなどのデメリットもある。また、個人事業主の場合、事業に関連性があれば交際費は全額損金にできるが、法人の場合は交際費のうち飲食代に限って50%の費用を損金に算入することしかできない。ただし、資本金1億円以下の企業は年間800万円までは全額損金に算入が可能だ。
このように法人を設立する際には数十万の費用を要し、その後も税金を取られるデメリットがあるが、個人は古物商を申請するために必要となる19,000円のみで開業できる。
法人化のメリット
次に法人化した場合のメリットを確認していきたい。具体的には、以下のようなものが考えられるだろう。
取引相手に選ばれやすい
個人事業主に比べ、法人の場合は信用が高まる。特に大手企業などは法人であることを条件にしているところも多くある。また、個人事業主と法人で取引条件が同じだった場合、後者の法人は選ばれる可能性が高いといえるだろう。
取引に先立って、相手先が企業情報等を確認することも珍しくなく、法人であれば登記事項証明書などを取得することで法人情報が簡単に入手できる。しかし、個人の場合は開示されている情報量が少ないため、信用されにくい可能性がある。
税制面で有利
税制面では法人化によって個人事業主が社長になり役員報酬を支給することで、給与所得控除の恩恵を受けることができる。また、家族に給料を分散するなどして所得税の税率を抑えながら給与所得控除を受けることが可能だ。
個人事業主で従業員を常時5人以上抱えている場合、かつ一定の事業の場合に社会保険が強制適用されるため、この場合に法人のほうが社会保険の負担は軽い。
融資を受けやすい
経営を始める際や事業を拡大する際など多くのお金が必要となる際に、融資を受ける場合もあるだろう。しかし、個人の場合は、信用が得にくいため融資が受けにくく、予想外に申請が通らないこともある。
一方で、法人はどこの誰かはっきりしており社会的な信頼度が高いため、融資申請が通りやすく個人事業主よりも大きい金額を借りやすい。
相続の際に許可を取りなおさなくて良い
個人の場合、相続人が引き継ぐには許可を取り直す必要があるが、法人は事業を廃止しない限り、許可を取り直す必要がない。中小企業の場合は社長や役員が管理者を兼任するケースが多く、事業継承時以外に仕事を引き継ぐことは少ない。
だが、大きな会社の場合は、一般社員を管理者に選ぶことも考えられる。そうなると古物商の管理者に変更があった場合、変更届出の提出が必要になるため、その社員が退職するたびに変更届出を出さざるを得なくなり、ノウハウも必要とされる古物ビジネスの引継ぎリスクが発生しやすくなる。
古物商の管理者には特別な資格などは必要なく、社長が管理者になる必要はないが、このビジネスの特性を考えると少なくとも古物ビジネスについて良く知っている人がなるべきだろう。
古物市場に参加しやすい
古物商は古物市場に参加することができ、古物を安く大量に仕入れることが可能だ。また、不要在庫を放出することもできる。これは、とりわけ法人のほうが信頼があるため、参加しやすいといわれている。
そのため、一部の古物市場では、法人しか参加できないものもある。特にカーパーツなどで多いようだ。車の売買を個人でおこなおうと思った場合に、なかなか古物市場から仕入れることができず、経営が困難に感じるかもしれない。
責任の範囲が小さい
個人事業主が借金をした場合は、無限責任という責任の取り方になる。これは発生した債務の全額を弁済するものだ。一方で、法人の場合には、出資額を限界とした額の弁済のみ責任を取る。そのため、それ以上を弁済する必要はない。
co.jpのサイトが取れる
サイト上で古物商をおこなう場合にドメインを取得するだろう。ドメインには、comやjpなどさまざまなものがあるが、co.jpは法人と一部の組合の者しか取れないことになっている。そのため、法人としてco.jpのドメインを取得することで、サイトの信頼性も高まると考えられる。
繰越欠損金
事業を始めたばかりの頃は、赤字になる場合が多いだろう。この場合に損失繰越をおこない控除を受けることが可能だ。しかし、赤字の損失申告は、個人と法人で可能な年数が異なっている。
個人事業主の場合には最長で3年だが、法人の場合には最長9年の繰越が認められている。なお、青色申告に適用されるものであるため、白色申告では一部の赤字のみを繰り越すことができる。これにより、場合によっては法人税をゼロにすることも可能だ。
最終的な判断方法は古物商でどの程度稼ぐか
法人には初期費用と手間がかかるが、信頼が得られるため規模を拡大しやすいと考えられる。また、個人の場合に所得税の税率は上がっていくが、法人税は定率の30%である。
目安として、500万円以上稼ぐ場合、法人のほうが税制面で優遇されると考えられる。従業員を多く抱えることで社会保険の負担が増すことからも、どの程度稼ぐ見込みがあるかで、個人・法人を検討すると良いだろう。
まとめ
申告の際の管理者は自身である必要がなく、営業所の近くに住んでいるなどしていて、古物に関する知識を有し欠格要因にあてはまっていない人であれば管理者になることができる。法人の場合には代表取締役、取締役、監査役なども欠格要因でないことが条件となるため、個人事業主と比べると少々面倒に感じるかもしれない。
申請は個人・法人どちらでも可能であるため、法人にかかる初期費用や申請書類の煩雑さなどを考えて、法人と個人とで登録を迷う人もいるかもしれないが従業員を多く雇い大々的におこなう場合には、法人でおこなうほうがメリットが大きくなるだろう。
また、「主として取り扱うとする古物の区分」に自動車を考えており、中古自動車を取り扱おうと考えている場合に、個人では圧倒的に不利な状況に陥る可能性が極めて高い。仮にカーオークションの参加が個人も認められていたとしても取引実績などが求められることが多い。この点については注意が必要である。
こういった条件を踏まえた上で、個人・法人の申請を検討し、場合によってのちのち法人に移行するようにしたほうが良いかもしれない。
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